御互おたがい)” の例文
私「それは御互おたがいに弱い人間同志の競合せりあいを云うんだろう。僕のはそうじゃない、もっと大きなものをすのだ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして御互おたがいに青年だちは、その息も聞えないような少女について考えなかったし、また少女も小さな彼女の身体からだによって作られた闇のなかに封じられてしまったように
咲いてゆく花 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
それに、いやしくも神州男児で、殊に戦地にある御互おたがいだ。どんなことがあろうとも、謂うまじきことを、何、撲られた位で痛いというて、味方の内情を白状しようとする腰抜がどこに在るか。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御互おたがい身躯からだがすれすれに動く。キキーとするどい羽摶はばたきをして一羽の雉子きじやぶの中から飛び出す。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何だ、それでも生命いのちがあるでないか、たとひ肉がただれやうが、さ、皮が裂けやうがだ、呼吸いきがあつたくらゐの拷問なら大抵たいてい知れたもんでないか。それに、いやしくも神州男児で、ことに戦地にある御互おたがいだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もうすでに切れかかっている。車の戸と窓があいているだけで、御互おたがいの顔が見えるだけで、行く人と留まる人の間が六尺ばかりへだたっているだけで、因果はもう切れかかっている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)