引繰返ひっくりかえ)” の例文
水入みずいれ餌壺えつぼ引繰返ひっくりかえっている。あわは一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠のさんにかじりついていた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
方々ほうぼうの室から、呼鈴べるの電線がつづいているので、その室で呼ぶと、此処ここ電鈴べるが鳴って、その室の番号のついてる札が、パタリと引繰返ひっくりかえるという風になっているのだが、何しろ
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
「お重さんこれお貞さんのよ。好いでしょう。あなたも早く佐野さんみたような方の所へいらっしゃいよ」と嫂は縫っていた着物を裏表引繰返ひっくりかえして見せた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おやおや今時分、何処どこの室から、呼ぶのだろう、面倒臭いことだなどと思いながら、思わず、ひょこり頭をもたげて、それを見上げると、こは如何いかに、その札の引繰返ひっくりかえっているのは
死体室 (新字新仮名) / 岩村透(著)
彼女はあおくなった。彼女は硬くなった。津田はそこに望みをつないだ。今の自分に都合つごうの好いようにそれを解釈してみた。それからまたその解釈を引繰返ひっくりかえして、反対のがわからも眺めてみた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)