幄舎あくしゃ)” の例文
山の祖神の翁は、泣いていいか笑っていいか判らない気持にされながら、かがり火越しに幄舎あくしゃの方を観る。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ところへ、何か道誉の打合せが来て、二将は、彼の待つ神社の横の幄舎あくしゃへかくれた。そして出発を目前にしながら、道誉を中心に、鳩首きゅうしゅ、時を移しているふうだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『前日、幄舎あくしゃてた工匠たくみどもが、くぎをこぼしていたものとみえ、釘を踏み抜いてしまったのだ。おれでも踏み抜けばよかったのに……あの青毛あおが、後脚ともあしの右のひづめで』
その夕は相憎あいにくとこの麓の里で新粟を初めて嘗むる祭の日であり、娘の神の館は祭の幄舎あくしゃに宛てられていた。この祭には諱忌ききのあるものは配偶さえ戸外へ避けしめる例であった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
清盛は、武者溜むしゃだまりとなっている幄舎あくしゃの横で、ふと、源ノ渡を見かけて、そうたずねた。
岳神の家は幄舎あくしゃに宛てられていた。神楽かぐらの音が聞えて来る。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ほかに、たくさんな幄舎あくしゃがあり、幕囲まくがこいが見え、そこには、右馬寮、左馬寮の職員やら、雅楽部ががくぶ伶人れいじんやら、また、落馬事故や、急病人のために、典医寮てんいりょう薬師くすしたちまで、出張していた。