嫌悪けんを)” の例文
旧字:嫌惡
一家の平穏のためにはどんな些細ささいな邪魔でも嫌悪けんをしたい本能から気の引きしまるのを感じながら、彼女は玄関の厚い硝子戸ガラスどをゆつくり開けた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
代助は今の平岡に対して、隔離の感よりも寧ろ嫌悪けんをの念を催ふした。さうして向ふにも自己同様の念がきざしてゐると判じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もしあの盛衰記の島の記事から、辺土へんどに対する都会人の恐怖や嫌悪けんをを除き去れば、存外ぞんぐわい古風土記こふうどきにありさうな、愛すべき島になるかも知れない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
富岡はゆき子に復讐ふくしうするやうな眼で、酔つぱらひの化粧のはげた、醜いゆき子を嫌悪けんをの表情でみつめた。この女との幕は終つたやうな気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
僕自身の経験によれば、最も甚しい自己嫌悪けんをの特色はあらゆるものにうそを見つけることである。しかもその又発見に少しも満足を感じないことである。
僕は (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世の中のすべてに嫌悪けんをの情を持つてゐたゆき子は、富岡をこの場所から、のろひつめてやりたい気もしてきた。おせいに敗北した事が、ゆき子には、自分が生き残つてゐるだけに口惜しくもあつたのだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
従つてマツチの商標は勿論もちろん、油壺でも、看板でも、乃至ないし古今ここんの名家の書画でも必死に集めてゐる諸君子くんしには敬意に近いものを感じてゐる。時には多少の嫌悪けんをまじへた驚嘆きやうたんに近いものを感じてゐる。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)