天心てんしん)” の例文
しかし何しろ秋の夜の空はぬぐった様に晴れ渡って、月は天心てんしん皎々こうこうと冴えているので、四隣あたりはまるで昼間のように明るい。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「樹下石上は、乞食と武芸者、どちらも馴れておらねばならぬ。……ああ、月天心てんしん。この月を見ていると、天下は泰平、風をはらむ不平のともがらもないようだが……」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
初春の太陽は午下りながら、薄ぼけた靄をかぶつて天心てんしんに在つた。暫く戸外へ出て見ない中に、春はどこともなく地上に搖れ立つてゐた。記念祭にはお誂への天氣だ。
受験生の手記 (旧字旧仮名) / 久米正雄(著)
陽気で無邪気なかの女はまた、恐ろしく思索しさく好きだ。思索が遠い天心てんしんか、地軸にかかっている時もあり、優生学ゆうせいがくや、死後の問題でもあり、因果律いんがりつや自己の運命観にもいつかつながる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天心てんしんにかゞやくは、いち日輪にちりん
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つき天心てんしん貧しき町を通りけり
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)