境地きょうち)” の例文
これは恐るべき度胸どきょうだと、感嘆したことを今でもおぼえているが、二十年をた今となると私自身が、まったく、それと同じ境地きょうちに落ちつこうとしているのだ。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
しかしけっきょく、これまでにこれだけのすぐれた綿密めんみつ境地きょうちを開いた学者はいなかったので、この博士論文は通過した。そのかわり、審査に一年以上を要したのであった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兄さんの絶対というのは、哲学者の頭から割り出されたむなしい紙の上の数字ではなかったのです。自分でその境地きょうちに入って親しく経験する事のできる判切はっきりした心理的のものだったのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片坐禅かたざぜんのように、片足を手でもちあげて、もう一方の脚の上に組んだ。それから両手を軽く握り目をうすく開いて、姿勢を正した。彼はたしかに無念無想の境地きょうちにはいろうとしているのが分った。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)