噪音そうおん)” の例文
兵馬は異様な心持で、浴室から自分の座敷へ帰ろうとするその廊下の途中で、また一つの座敷から起る噪音そうおんに、驚かされてしまいました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乱雑な騒々しい往来の噪音そうおんの奥から、身も心も浮き立つようなメロディとリズムとが響いて来る。己の眼には始終微妙な幻影が映って居る。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこからは調子のはずれた噪音そうおんが、うなり声や苦痛の叫びで引き裂かれながら、階下したまで伝わって来るのだった。
このあわただしい船の別れを惜しむように、検疫官は帽子を取って振り動かしながら、噪音そうおんにもみ消される言葉を続けていたが、もとより葉子にはそれは聞こえなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
構成派でもなければ写実派でもない……大地と大空とが直接に奏でる「人類文化」の噪音そうおん交響楽……徹底した真剣な音楽をシミジミと大地に横たわって聞く……そこに彼は
童貞 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつてその諧調かいちょう噪音そうおんがあった場合がなく、また強弱に失した場合もない。色調はいつも深くまた静かである。これに材料の柔かさとその心地よき厚みとが一層の温味を加える。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
不規則に角立かどだった音波は噪音そうおんとして聞かれ、振動急速な紫外線は目に白内障をひき起こす。その何ゆえであるかは完全には説明されていないではないか。いわんや光の量子説の将来は未知数である。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不愉快な噪音そうおんとしか感ぜられなくなってしまうのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
要は昼の酒が利いたのと、周りの噪音そうおんが激しいのとで上気したせいか、ただチラチラと眼に映るものを感じているだけに過ぎないのだが、それでいて決して退屈でもなければ耳触りでもない。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)