取付とっつき)” の例文
宗助はいつものように縁側えんがわから茶の間へ行かずに、すぐ取付とっつきふすまを開けて、御米の寝ている座敷へ這入はいった。見ると、御米は依然として寝ていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて取付とっつきの板橋村近く参りますと、道路も明くなって、ところどころ灰紫色はいむらさきの空が見えるようになりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
けれどもなにごとも取付とっつきが肝心だから、途中でいけなかったなんていうことになるとあぶはちとらずだからね、あたしもよく考えてみて、それからもういちど相談しようよ
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
広い階子段はしごだんを二階へ上がって、右へ折れて、突き当りをまた左へ行くと、取付とっつきが重役の部屋である。重役は東京に行ってるもののほかは皆出ていた。それに一々紹介された。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この高原の広さは五里四方もある、荒涼とした原の中には、蕎麦そばなぞをいたところもあって、それを耕す人達がところどころにわずかな村落を形造っている。板橋村はその一番取付とっつきにある村だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私が三度目に帰国したのは、それからまた一年った夏の取付とっつきでした。私はいつでも学年試験の済むのを待ちかねて東京を逃げました。私には故郷ふるさとがそれほど懐かしかったからです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)