単衣ひとへもの)” の例文
旧字:單衣
「里見さん。あなたが単衣ひとへものて呉れないものだから、着物きものにくくつてこまる。丸で好加減いゝかげんにやるんだから、少し大胆ぎますね」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その日は朝から急に涼風すずかぜが立つて、日が暮れるともう単衣ひとへものでは冷々ひやひやするくらゐでしたが、不思議なことにはその晩つともお客が無いんです。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
渋紙色に白粉焼のした顔色と単衣ひとへものに半纒をかさね、長羅宇の煙管で煙草をのんでゐる様子、洲崎のおいらんだつたと云ふ木場の話が思出される。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いつしか単衣ひとへものになつたはだにもなづんで来ると、やがて間もなく厭な梅雨の季節が来て、物の黴附かびつくやうな、うつたうしい雨が、毎日よく飽きもしずにじめ/\と降りつづいた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一日縦縞の単物ひとへものをきて出て戻りには白飛白しろかすりの立派なのを着て来ましたから誰れのと問ふたら、己れの単衣ひとへものを誰れか取つて行つたから、おれは西郷から此の衣物きものを貰つて来たと云ひました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)