卒塔婆そとうば)” の例文
卒塔婆そとうばの文字、——清勝院殿法授静山居士——と読み下すと共に、彼は、そこまで追って来た慕わしい恋しい兄が、何ものであったかはっきりさとった。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金五郎は、名簿から、数十人の死んだ子分の名を書き抜き、安養寺の和尚に、卒塔婆そとうばをつくって貰った。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
他に、卒塔婆そとうばや青笹などが処々に建てられていて、その赤く枯れた笹に当時結び付けられた白紙や、赤い紙などが淋しげに風に動いていた。太吉はその墓場で休んだ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
墓地の松林の間には、白い旗や提灯ちょうちんが、巻かれもしないでブラッと下がっていた。新しいのや中古ちゅうぶる卒塔婆そとうばなどが、長い病人の臨終を思わせるようにせた形相ぎょうそうで、立ち並んでいた。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それにはなまずがかかっていて草の上へ落ちた。伊右衛門はあわてて傍にあった卒塔婆そとうばを抜いて押え、魚籃びくに入れるなり卒塔婆を投げだした。卒塔婆は近くに倒れて気を失っていた女乞食の前へ落ちた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「さればよ、明日あすは、父義朝の五七日のにあたる。小さい卒塔婆そとうばなとけずってご供養のしるしとしたいが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)