千手観音せんじゅかんのん)” の例文
世には千手観音せんじゅかんのんという尊像もあるのだから、三十六や七は数に於て問題でないが、その生血の滴る現実感の圧迫にはこたえざるを得ない。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また自分の背に私を後向きに背負って、「千手観音せんじゅかんのんだ。」と云って冗談をしたりした。幼い私は父の背で「千手観音、拝んでおくれ。」などと云ったりした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「うむ、たった一つのスイッチを入れたばかりで、こんな巨人のような器械が運転を始め、そして千手観音せんじゅかんのんも及ばないような仕事を一時にやってのけるなんて……」
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ことに右の脇士千手観音せんじゅかんのんは、自分ながら案外に思うほどの強い魅力を感じさせた。確かにここには「手」というものの奇妙な美しさが、十分の効果をもって生かされている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
一揆いっき方の諸城よりって出たならば、蒲生勢は千手観音せんじゅかんのんでも働ききれぬ場合に陥るのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三十三間堂では薄闇の中に金色きんしょく燦爛さんらんとして何列にも立ち並んでいる千手観音せんじゅかんのんの数に驚いた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これがために、いわゆるストロボスコープ的効果によって、進行せる自動車の車輪だけが逆回りをしたりするような怪異が出現し、舞踊する美人が千手観音せんじゅかんのんに化けたりするのである。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
敵の飛行機の音を聞きつけてその方向を測知するという目的のために、文明国の陸軍では、途方もなく大きな、千手観音せんじゅかんのんの手のようなまたゴーゴンの頭のようなラッパをもった聴音器を作っている。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)