勘亭流かんていりゅう)” の例文
勘亭流かんていりゅうの細字で役割を記してあるのがかなり読みにくい上に、古来の習慣として“捨役すてやく”なるものが附け加えられている場合が往々ある。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
壁が崩れ落ちたと思うところに、日章旗にっしょうき交叉こうさした間に勘亭流かんていりゅうで「祝開店、佐渡屋さん」と書いたびらをつるして隠してあるような六畳の部屋だった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あまがわ澄渡すみわたった空にしげった木立をそびやかしている今戸八幡いまどはちまんの前まで来ると、蘿月はもなく並んだ軒燈の間に常磐津文字豊ときわずもじとよ勘亭流かんていりゅうで書いた妹の家のを認めた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
所作事しょさごと道成寺入相鐘どうじょうじいりあいのかね」——怪しげな勘亭流かんていりゅう、それを思い切って筆太に書いた下には、うろこ衣裳いしょうを振り乱した美しい姫、大鐘と撞木と、坊主が数十人、絵具が、ベトベトとしてなまな色。
今はもう昔がたりになったが、あの小さい劇場の有楽座が建ったはじめに、表に勘亭流かんていりゅうの字で書かれた有楽座という小さい漆塗りの看板が掛っていたのに、私は奇異の眼をみはった事があった。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「だって、後見がうまくなけりゃ太夫が引立たねえや。さあさあ、殿様の曲芸、米芾様べいふつようの筆を以て、勘亭流かんていりゅうの看板をお書きになろうとする小手先のあざやかなところに、お目をとめられてごろうじろ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
役割の文字も在来の勘亭流かんていりゅうを廃して、すべて活字を用いた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)