全然まるっきり)” の例文
そうしたらネ、アノなんですッて、私の言葉には漢語がざるから全然まるっきり何を言ッたのだか解りませんて……真個ほんとに教育のないという者は仕様のないもんですネー
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「あの年齢としに成って、ああいう手紙を交換とりかわしてるものかと思うと、驚く……」と言って、正太は歎息して、「私達が書く手紙なぞとは、全然まるっきり違ったものなんです」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝とはいっても全然まるっきり、こうやって、前後に人通りのない山路やまみちだ、風体の悪い……おい、悪く聞くな。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泥棒は多分、先刻の蛇の文身の男の騒ぎから、引続いて女の文身の騒ぎの間に仕事をしたのでしょう、全然まるっきり裸にされたのが二十二三人、あとの七十何人も、何かしらられない者はない有様です。
「まずないねとは驚いた。それじゃ全然まるっきり詐欺いかさまだね」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親類みよりらしい者もない、全然まるっきりやもめで、実際形影相弔うというその影も、破蒲団やぶれぶとんの中へ消えて、骨と皮ばかりの、その皮も貴女、褥摺とこずれに摺切れているじゃありませんか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「榊君と言えば、先生も引込ひっこみきりか……あれで、叔父さん、榊君の遊び方と私の遊び方とは全然まるっきり違うんです……先生の恋には、選択は無い。非常に物慾のさかんな人なんですネ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)