乾漆かんしつ)” の例文
眉は植えたものみたいにこわく、色の黒さも、乾漆かんしつの仏像肌を想像させる。——それに、もひとつの特徴は、左の顎のあたりにこぶがある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはずっと後期になって現われた様式であること、それからこの石棺の内部は乾漆かんしつになっていたこと、そして一めんに朱で塗られてあったと見え
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
材料を木に取って、乾漆かんしつでは出すことのできないキッパリした感じを出そうとしているのが、その新しい証拠である。写実の技巧が一歩進んでいることも認めなくてはなるまい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
幾本となくたてに組み合わされた、というよりも大磐石にヒビが入って、幾本にも亀裂したように集合して、その継ぎ目は、固い乾漆かんしつの間に、布目ぬのめを敷いたように劃然かっきりとしているのが
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
乾漆かんしつ木彫もくてうかとて役人がゆびもてはじく如意輪の像
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
まるで乾漆かんしつで出来てるような愚堂の顔から、眼だけが白く、それを憎むかのようにするどく、武蔵の影を見つめるだけだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入渠船のペンキ塗工はすべて彼らの手に成るので、工服は一人残らずまだらで色さまざまなペンキの粒子を染め重ね、それがゴワゴワに硬ばッて、乾漆かんしつみたいになっている。