上靴スリッパー)” の例文
二人はそのままいっしょに下宿へ帰った。上靴スリッパーかかとを鳴らして階段はしごだんを二つのぼり切った時、敬太郎は自分の部屋の障子を手早く開けて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
体を半分廊下へ出し、うつむいて上靴スリッパーを穿こうとしている佃の姿が伸子のところから見えた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
敬太郎は取次のそろえてくれた上靴スリッパー穿いて、御客らしく通るには通ったが、四五脚ある椅子のどれへ腰をかけていいかちょっと迷った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっともこの西洋人は上靴スリッパー穿いて、島田の借りている部屋の縁側までのそのそ歩いてくる癖をっていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かかとね上る上靴スリッパーの薄い尾がなかったなら、彼はついにそれを聴き逃してしまわなければならないほど静かであった。その時彼の心を卒然として襲って来たものがあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寝巻ねまきの下に重ねた長襦袢ながじゅばんの色が、薄い羅紗製らしゃせい上靴スリッパーつっかけた素足すあしの甲をおおっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田は自分の方であやまるべき言葉を、相手に先へられたような気がした。すると階子段はしごだんを下りる上靴スリッパーの音がまた聴こえた。それが硝子戸の前でとまったかと思うと男女の会話が彼の耳に入った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)