一晌いっとき)” の例文
かつら (やがて砧の手をやめる)一晌いっときあまりも擣ちつづけたので、肩も腕もしびるるような。もうよいほどにしてみょうでないか。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さしたる荷物もないのであるが、それでも一晌いっときほどの暇を潰して、主人も家来もがっかりした。表では雨の音がはらはら聞えた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
疲れ切っている二人は木枕に頭を乗せるとすぐに高いびきで寝付いてしまったが、およそ一晌いっときも経つかと思うころに紋作はふと眼をさました。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一晌いっときほどの後に千枝太郎は暇乞いをして帰った。それから京の町をひとめぐりしたが、きょうも都の人はちっとも彼に商売あきないをさせてくれなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一人ひとりの祈祷や占いが可なり長くかかるので、半七は一晌いっときほども待たされたが、それでもこんよく辛抱していた。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうして一晌いっときほども過ぎた後に、誰があけたか知らないが、入口の扉が自然にあきました。お角は真っ蒼になって出て来ました。犬もおとなしく付いて来ました。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十年振りでめぐり合った父が直ぐにここの土になろうとは、まるで一晌いっときの夢としか思われなかった。しかもその夢はおそろしい夢であった。卵塔場らんとうばには春の草が青かった。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
泰親が半日の祈祷にはなんの効験しるしもなかったのに、それに入れ代った玉藻は一晌いっときの後にあれほどの大雨を呼び起こしたのであるから、表向きはどうしても彼の負けである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「知りません。この筆を買って帰ってから、一晌いっときほど経って又引っ返して来て、穂の具合が悪いからほかのと取り換えてくれと云って、ほかのと取り換えて貰って行きました」
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「日が暮れてから帰って来て、それから一晌いっときほども経つと、ひとりの女が来たようでした」
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は涙を流して一晌いっときあまりも意見して、どうにかこうにか主人の決心をにぶらせた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うちの子供も由ちゃんと丁度おなじように、だしぬけに顔の色が変って、それから一晌いっときの間も無しに死んでしまったんですが、お医者にもやっぱりその病気がたしかに判らないということでした。
春彦 夜とは申せど通いなれた路、一晌いっときほどに戻って来まする。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)