一反いったん)” の例文
「——あの人が無事でいたら、わたしもどんな工面くめんしても、こんなのを一反いったん仕立てて、今年のあわせに、着せてやりたいが……」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八重と高子は月給を貰うとそれを出し合って新しい銘仙めいせん一反いったん買い、八重は自分のじみな着物を一枚添えて小包にした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
或いは親々はそれがあまりに嬉しいので、ちょうどその一反いったんの織り上がる頃には、自然に快く死んでしまう気にもなったろうかと思うばかりである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
最前さいぜん細君と喧嘩をして一反いったん書斎へ引き上げた主人は、多々良君の声を聞きつけて、のそのそ茶の間へ出てくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
趣味をもっと優しく内気にしてほしいと思います。この間、ある百貨店へ木綿を一反いったん買いに参りましたが、木綿のいいのが少しも見当らないのでガッカリしました。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
粗末ではあるが春着にでもと送ってくれた一反いったん山繭やままゆが、丁度お目見得の晴着となったのであった。いくら奉公でも若い女が着のみ着のままでは目見得にも行かれない。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「たいしたことはないです、授業はめったに休んでないから」答えながら信二は一反いったん風呂敷を背負いあげた。新曲のジャズの楽譜は、入手するのがまだ困難な時代だった。
その一年 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ここだと思って力を込めて一反いったん飛び上がっておいて、そして小石か何ぞのように未練なく落ちてしまいました
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々は麻布といえば一反いったん二十円もするような上布じょうふのことをしか思い浮かべないが、貢物みつぎものや商品になったのはそういう上布であっても、東北などの冬の不断着ふだんぎは始めから
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三人で一反いったんの倹約になるから、七千万人では幾らなどと、小学生の算術のようなことを考える前に、どうしたらたった一部分の都合のつく人々の間にでも、採択してもらうことができるだろうかを
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)