透通すきとお)” の例文
さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深くあおく、日の光は透通すきとおった空気に射渡さしわたって、夕の影が濃くあたりをくまどるようになった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わけエ時分には散々おふくろに苦労をさせました…勇助さん此の水を御覧なさい、能く澄んでるでしょう、透通すきとおって底が見えるぐらいだのに
呆気あっけに取られて目も放さないで目詰みつめて居ると、雪にもまがうなじさしつけ、くツきりしたまげの根を見せると、白粉おしろいかおりくしの歯も透通すきとおつて
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仔細に見れば、二の腕や腿のあたりに生毛うぶげも生えていたし、毛穴も見えたけれど、それにもかかわらず、全体の感じは、すべっこくて、透通すきとおっていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
九女八は、タバコやにの流れた筋が、あめ色に透通すきとおるようになった、琥珀こはくのパイプをすかして眺めて
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
月は益〻え返って乙女の全身は透通すきとおるかとばかり、蒼白い光にけぶっている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
皮膚は蝋燭の様に白く透通すきとおり、鼻は低いが口元は小さく、その丸い両の眼玉は素絹そぎぬを敷いた様に少しボーッとしてはいますが、これが又何と言いますか、恐ろしく甘い魅力に富んでいるんです。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
とお銀様がふるえ上るその頭髪かみの上で、二つの蝶が食い合っていました。竜之助には、いよいよ判然はっきりとその蝶が透通すきとおるように見えるのであります。蝶の噛み合う歯の音まで歴々ありありと聞えるのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
横ざまに長く棚曳たなびく雲のちぎれが銀色に透通すきとおって輝いている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
トもんどりを打って手足を一つに縮めた処は、滝を分けて、すとんと別の国へ出たおもむきがある、……そして、透通すきとおる胸の、暖かな、鮮血からくれないの美しさ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
到頭あんなに零落おちぶれてしまったんですが、それでもお嬢様があゝって彼様あんなに親孝行をなさるんですよ、だがあんな扮装なりをして入らしっても透通すきとおるようない御器量で
それは前の二つの例とは違い、顔ばかりではなく、全身まばゆいばかりの金色で、仮面のほかに何か透通すきとおる様な薄い黄金製の衣裳を着ていたらしいということであった。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
金兵衛さんが紺の透通すきとおった着物を着て、白扇はくせんであおいで風通しのいい座敷に座っていると、顔見知りの老船頭だの、大工の棟梁とうりょうのところの伊三いさというおいだのがかわるがわるに
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
紳士 口でな、う其の時から。毒蛇どくじゃめ。上頤うわあご下頤したあごこぶし引掛ひっかけ、透通すきとおる歯とべにさいた唇を、めりめりと引裂ひきさく、売婦ばいた。(足を挙げて、枯草かれくさ踏蹂ふみにじる。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
透通すきとおった闇夜も、闌干らんかんたる星空も、自動車の風よけガラスの隙間すきまから、彼の頬にざれかかるそよ風も、彼の世の常ならぬ結婚の首途を祝福するものでなくて何であろう。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だがい湯で、塩気があって透通すきとおるようで、ごく綺麗です、玉子をゆでて居る奴があるので、手拭に包んで玉子を湯にけて置くと、しんが温まるという、どういう訳かとみんなに聞くと
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この美しいひとは、そのはだえ、そのかんざし、その指環ゆびわの玉も、とする端々透通すきとおって色に出る、心の影がほのめくらしい。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
色くっきりと白くして豊頬しもぶくれの愛敬のある、少しも白粉気おしろいけの無い実に透通すきとおる様な、是が本当の美人と申すので、此の娘が今襷掛たすきがけで働いて居ります、あんまり美しいから人が立停って見て居る様子。
顔色は透通すきとおる様に白かった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
浅黄あさぎ手絡てがらけかかって、透通すきとおるように真白まっしろほそうなじを、膝の上に抱いて、抱占かかえしめながら、頬摺ほおずりしていった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしはそのまま目をらしたが、その一段の婦人おんなの姿が月を浴びて、薄い煙に包まれながら向う岸のしぶきれて黒い、なめらかな大きな石へ蒼味あおみを帯びて透通すきとおって映るように見えた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんなの全身、ひさしる月影に、たら/\と人の姿の溶ける風情ふぜいに、輝く雪のやうな翼に成るのを見つゝ、沢は自分の胸の血潮が、同じ其の月の光に、真紅しんく透通すきとおるのを覚えたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雪のやうなお手の指をに遊ばして、高いところで、青葉の上で、虹のはだへ嵌めるやうになさいますと、其の指に空の色が透通すきとおりまして、紅い玉は、さっと夕日に映つて、まつたく虹のひとみに成つて
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
病気がなおったと思った晩、手を曳いて、てらてら光る長い廊下ろうかを、湯殿ゆどのへ連れて行って、一所いっしょ透通すきとおるような温泉いでゆを浴びて、岩をたいらにした湯槽ゆぶねわきで、すっかり体を流してから、くしを抜いて
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときれたような真黒な暗夜やみよだったから、そので松の葉もすらすらと透通すきとおるように青く見えたが、いまは、あたかも曇った一面の銀泥ぎんでいに描いた墨絵のようだと、じっと見ながら、敷石しきいしんだが
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その春の雪のようなはだへ——邪慳じゃけんな叔父叔母に孝行な真心が、うっすりと、薄紅梅の影になって透通すきとおる。いや、お話し申すうちにも涙が出ますが、間もなくあわれに消えられました。遠国へな。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「真赤なひれへ。凄い月で、紫色に透通すきとおろうね。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
透通すきとおるばかり美しい。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)