羽織はお)” の例文
その間に、女中頭の菅沼るい(五十歳)白い毛糸のジャケツを、ふとつたからだに軽く羽織はおつて勿体らしく右手のホールから現はれる。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
青い小倉おぐらの職工服に茶色のオーヴァを羽織はおっていたが、オーヴァのボタンは千切ちぎれかかって危うく落ちそうにぶらぶらしているし
葉子は倉地の後ろから着物を羽織はおっておいて羽がいに抱きながら、今さらに倉地の頑丈がんじょうな雄々しい体格を自分の胸に感じつつ
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
誰か、——部屋の中には女のほかにも、丹前たんぜん羽織はおった男が一人、ずっと離れた畳の上に、英字新聞をひろげたまま、長々ながなが腹這はらばいになっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから起き上って、夜具のすそに掛けてあった不断着を、寝巻ねまきの上へ羽織はおったなり、床の間の洋灯を取り上げた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つぎはぎだらけの縦縞の長半纏ながはんてんの上から、夏だというのに袖なしを羽織はおって、キチンとならべた両の膝がしらを、しきりにすそを合わせて包みこみながら
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前の千鳥足の酔漢は、小ざっぱりしたもじり外套がいとう羽織はおったいき風体ふうていだが、後から出てきたのは、よれよれの半纏はんてんをひっかけた見窶みすぼらしい身なりをしている。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白いショールをぱつとひろげると、羽織も着ないせた肩にさつと羽織はおつて、さよならとあわてて出て行つたが、富岡がその女をやりすごして硝子戸の中へはいると
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
黒縮緬の紋附を羽織はおつた、でつぷり太つた元氣の好さゝうな人柄であるが、とき/″\見物の方へ扇をさし出して、「どうか皆さん、お志を投げてやつて下さいましよ」
二月堂の夕 (旧字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
羽織はおつた女の單衣ひとへをかなぐり捨てると、平次は曲者の利腕きゝうでを取つて、縁側にねぢ伏せたのです。
女はその時そこにいるのがもうたまらないと云うようにしてちあがった。単衣ひとえの上に羽織はおった華美はでなおめし羽織はおり陰鬱いんうつへやの中にあやをこしらえた。順作はそれに気をとられた。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わたくし服装みなりかわった瞬間しゅんかんには、もうわたくし守護霊しゅごれいさんもいそいそとわたくし修行場しゅぎょうばへおえになりました。お服装みなり広袖ひろそで白衣びゃくいはかまをつけ、うえなにやらしろ薄物うすもの羽織はおってられました。
母も後毛おくれげ掻上かきあげて、そして手水ちょうずを使って、乳母うば背後うしろから羽織はおらせた紋着に手を通して、胸へ水色の下じめを巻いたんだが、自分で、帯を取ってしめようとすると、それなり力が抜けて
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人共、少し冷え冷えして来たので、浴衣ゆかたの上に宿のドテラを羽織はおっている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それだけならいいけれど、どういうつもりか知らないが、その上に釣鐘マントを羽織はおっている。ああ、モナリザだと私は思い出した。洋服のち方が、モナリザのきている洋服と同じである。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
腺病質せんびょうしつのこどもだつた時分に、かういふ夜はよく乳母うばが寝間着の上に天鵞絨ビロードのマントを羽織はおらせて木の茂みの多い近所の邸町やしきまちの細道を連れて歩いてれた。天地の静寂は水のやうに少女を冷やした。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
どりやうはぎ甲斐甲斐かひがひしくも、きりりと羽織はおつたお月さま
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
と、胴服をそのうしろから羽織はおらせた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその最後から、涼しい色合いのインバネスを羽織はおった木部が続くのを感づいて、葉子の心臓は思わずはっと処女の血をったようにときめいた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それからあがつて、夜具やぐすそけてあつた不斷着ふだんぎを、寐卷ねまきうへ羽織はおつたなり、とこ洋燈らんぷげた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして丹前たんぜん羽織はおると、縁側に出て、雨戸をガラガラと開いた。とたんに彼は、ちんのように顔をしかめて
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その上、暑苦しいのに錦紗きんしゃ縮緬の半コートまでも羽織はおっていた。首には金鎖きんぐさり、指には金の指環、調和はとれないが一眼見てどこかの貴婦人だと思わせるような服装だった。
だから、あいつが御用ごようになつて、茶屋の二階から引立ひつたてられる時にや、捕縄とりなはのかかつた手の上から、きり鳳凰ほうわうぬひのある目のさめるやうな綺麗きれい仕掛しかけ羽織はおつてゐたと云ふぢやないか。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
美人たおやめは其の横に、机を控へて、行燈あんどうかたわらに、せなを細く、もすそをすらりと、なよやかに薄い絹の掻巻かいまきを肩から羽織はおつて、両袖りょうそでを下へ忘れた、そうの手を包んだ友染ゆうぜんで、清らかなうなじから頬杖ほおづえいて
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
金雀花えにしだなか外套まはし羽織はおつたまま、横向よこむきてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
宜道は鼠木綿ねずみもめんの上に羽織はおっていた薄い粗末な法衣ころもを脱いでくぎにかけて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宜道ぎだう鼠木綿ねずみもめんうへ羽織はおつてゐたうす粗末そまつ法衣ころもいでくぎけて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)