たたり)” の例文
其間そのあいだに村人の話を聞くと、大紙房と小紙房との村境むらざかいに一間の空家あきやがあつて十数年来たれも住まぬ。それは『』がたたりす為だと云ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
一たびこれに触れると、たちまち縲紲るいせつはずかしめを受けねばならない。さわらぬ神にたたりなきことわざのある事を思えば、選挙権はこれを棄てるにくはない。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また、「正直のこうべに神やどる」とも、「さわらぬ神にたたりなし」ともいえることわざがあるが、いずれも神に対する心得を示したるものである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
たたりを恐れぬ荒気の大名。おもしろい、水を出さば、天守の五重をひたして見よ、とそれ、生捉いけどって来てな、ここへ打上げたその獅子頭だ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狂犬! 私はそのとき狂犬の毒の恐ろしさよりも、「犬のたたり」即ち、これぞ身の破滅のいとぐちだ! という観念の恐ろしさに全身をふるわせた。
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
俗に言う触らぬ神にたたりなしの趣意に従い、一通りの会釈挨拶を奇麗にして、思う所の真面目しんめんぼくをば胸の中におさめ置くより外にせんすべもなし。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
○北上川の中古の大洪水に白髪水というがあり、白髪のうばあざむき餅に似たる焼石を食わせしたたりなりという。この話によく似たり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その思いが通らないでどうするものか。用心しろ、怨霊のたたりというものはな、生きた人間の力よりもよっぽど恐しいものだぞ。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なまぐさき油紙をひねりては人の首を獲んを待つなる狂女! よし今は何等の害を加へずとも、つひにはこの家にたたりすべき望をくるにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そう云われればそれももっとも、さわらぬ神にたたりなしとはこういうことを云ったものか、狼藉するのは止めるとしようか」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それも急性胃加答児いカタルられたのだと云うから、事に寄ると祖母が可愛がりごかしに口を慎ませなかったたたりかも知れぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
加うるに艶妻がたたりをなして二人の娘を挙げると間もなく歿ぼっしたが、若い美くしい寡婦は賢にしてく婦道を守って淡島屋の暖簾のれんを傷つけなかった。
幽霊だ、たたりだ、因縁いんねんだなどと雲をつかむような事を考えるのは一番きらいである。が津田君の頭脳には少々恐れ入っている。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで太卜ふとまにの法で占いをして、これはどの神の御心であろうかと求めたところ、そのたたりは出雲の大神の御心でした。
御意ぎょいにいらぬ其の時には、どのようなたたりがあるかも知れませぬ、他でお求めになるがよろしゅうございます」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
山霊さんれいたたりにやあらんたちまち暴風雨をおこしてすすむを得ざらしむ、ただ口碑こうひの伝ふる所にれは、百二十年以前に於て利根水源とねすゐげんたる文珠もんじゆ菩薩の乳頭にうたうより混々こん/\として出できた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
手習てならひに行くと、よくいたづらつ子にいぢめられる。それも、師匠に云ひつければ、あとたたりが恐ろしい。そこで、涙をのみこんで、一生懸命に又、草紙さうしをよごしに行く。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其処で村の人達は相会あいかいして、これには何か不思議な仔細があるのであろうと議結ぎけつをして小祠やしろを大きな合歓の木の下に建立こんりつして、どうかこの村に何事のたたりもないように
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから、たたりのほどもすくないであらうと自ら慰めて、不平も言はないで帰宅したのであつた。
たぬき汁 (新字旧仮名) / 佐藤垢石(著)
恐ろしきまなこを見張り、「爾は昨日黒衣がために、射殺されたる野良犬ならずや。さては妄執もうしゅう晴れやらで、わが酔臥えいふせしひま著入つけいり、たたりをなさんず心なるか。阿那あな嗚呼おこ白物しれものよ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
御機嫌をとらずともたたりをしないことが分かっているから。之に反して、悪神は常に鄭重に祭られ多くの食物を供えられる。海嘯かいしょうや暴風や流行病は皆悪神の怒から生ずるからである。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かつ父の為義をしいせしむくいせまりて、一一五家の子にはかられしは、天神あまつがみたたりかふむりしものよ。
そこで触らぬ神にたたりなしのたとえのとおりで、見て見ぬふりをしたというわけだ。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一行が土手町に下宿した後三月さんげつにして暴風雨があった。弘前の人は暴風雨を岩木山の神がたたりすのだと信じている。神は他郷の人が来て土着するのをにくんで、暴風雨を起すというのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「それさ、いい着物を着て、ただ者の子供じゃあんめいよ。そんだとも、うっかり手をつけられねいぞ。かかり合いになって牢屋ろうやさでも、ぶっこまれたら大変だ。触らぬ神にたたりなしって言うわで。」
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「止せ止せ、あとのたたりが恐い」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『註文帳』は廓外の寮に住んでいる娼家の娘が剃刀かみそりたたりでその恋人を刺す話を述べたもので、お歯黒溝はぐろどぶに沿うた陰欝な路地裏の光景と
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人みなこれを見て、かたつむりのたたりなりと申せし由、あまり簡単過ぎたる判断であるが、つまり論理の力の幼稚なる結果であろう。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
船中には、一人坊主を忌むとて、出家一にんのみ立交る時は、海神のたたりありと聞けば、の美女の心、いかばかりか、おその上にいたみなむ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋の彼岸の後に刈り取って、麻と同じように皮をぎ糸に引くので、木曾では秋分しゅうぶん前には山の神のたたりがあるからと謂って採りに行かなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
といって、まさか徒歩であとをつける訳にも行くまい。どう考えて見ても、やっぱりこれは怨霊のたたりと思う他はなかった。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
猟人等は驚いて、これおそらく山の神であろうと、のちたたりを恐れて捨てて置いたら、自然に腐って骨にってしまったと、橘南谿たちばななんけい西遊記せいゆうきに書いてある。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小野さんはさわらぬ神にたたりなしと云う風で、両手を机から離す。ただ顔だけが机の上の手紙に向いている。しかし机とひざとは一尺の谷で縁が切れている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
うっかりそんなものを撃ち取ろうものならたたりがあるに相違ない。これが彼らの本心であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
怖ろしいたたりを受けるというような例は古来沢山あったが、いずれも良心の苛責によって生じた恐怖心が、その人を導いて、その祟を招くようにしたものといってもあえて差支ないと思う。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「このころ、邪鬼がたたりをして、人民を悩ますから、その者どもを即刻捕えて来い」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時をもたがへずおとなひ来るなど、我家にたたりすにはあらずや、とお峯はにはかおそれいだきて、とても一度は会ひて、又と足踏せざらんやう、ひたすら直行にその始末を頼みければ、今日は用意して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
をりをりは我身、みづからも狂人にはあらずやと疑ふばかりなり。これにはレオニにて読みしふみも、すこたたりをなすかとおもへど、もしらば世に博士と呼ばるる人は、そもそもいかなる狂人ならむ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その後、地主が眼疾を起こし、その痛み忍び難いほどである。出入りの者みな申すには、「神のたたりなれば、祠をうつすことはやめさせたし」
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そのたたり、その罪です。このすべての怪異は。——自分のよくのために、自分の恋のために、途中でその手毬を拾った罰だろう、と思う、思うんです。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
餓鬼がきが死んでくれたんで、まあ助かったようなもんでさあ。山神さんじんたたりには実際恐れをしていたんですからね」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万一これに一発のたまを与えたならば、熱病其他そのたの怖るべきたたりこうむって、一家は根絶ねだやしになると信じられている。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蝦夷屋敷はこの両側に連なりてありしなりという。このあたりに掘ればたたりありという場所二ヶ所ほどあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
死霊しりょうたたりでございます。私はどんなに後悔しているか知れません」
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
易者、筮竹ぜいちくをひねりて鑑定して曰く、「この子息の病は地主荒神こうじんたたりなり。よろしく宅地を清浄にし、ほこらを建ててまつるべし」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いかなる事も堪忍んで、どうぞその唄を聞きたい、とこうして参籠をしているんですが、たたりならばよし罪はいとわん
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこへ住まうと何かたたりがあるという昔からの言い伝えで、この間まで空地あきちになっていたのを、この頃になってようやく或る人が買い取って、大きな普請ふしんを始めたのである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは子供をしかり戒めてこれを制止する者あれば、かえりてたたりを受け病むことありといえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これは池袋の神が我が氏子を他へ遣るのをいとって、かかるたたりすのだと云う、で、今度の不思議も或はその祟ではあるまいか、念の為にこの邸の下女を調べて見たらばかろうとの事。
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あれが言ったが、この間の病気は狐のたたりだってね」
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)