白菊しらぎく)” の例文
鹿鳴館ろくめいくわんには今日けふも舞踏がある。提灯ちやうちんの光、白菊しらぎくの花、お前はロテイと一しよに踊つた、美しい「みやうごにち」令嬢だ。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
背後うしろに……たとへば白菊しらぎくとなふる御厨子みずしうちから、天女てんにょ抜出ぬけいでたありさまなのは、あてに気高い御簾中である。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのひとこそ、彼が永い間、探し求めて止まなかった理想の妻だったのです。……それは、まるで白菊しらぎくのように清らかなひとでした。輝やかしい姫君ひめぎみでした。彼は夢中になりました。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
ななめにうねった道角みちかどに、二抱ふたかかえもある大松おおまつの、そのしたをただ一人ひとり次第しだいえた夕月ゆうづきひかりびながら、野中のなかいた一ぽん白菊しらぎくのように、しずかにあゆみをはこんでるほのかな姿すがた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
え山越え里打ち過ぎて来るは誰故たれゆえさま故誰故来るは来るは誰故ぞ様故君は帰るかうらめしやのうやれ我が住む森に帰らん我が思う思う心のうちは白菊しらぎく岩隠れつたがくれ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「さびしがっておろうの」範宴は、庭へ下りて、まがきに咲いていた白菊しらぎくった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つきしづめる白菊しらぎく
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
白菊しらぎくころ大屋根おほやねて、棟瓦むねがはらをひらりとまたいで、たかく、たかく、くもしろきが、かすかうごいて、瑠璃色るりいろ澄渡すみわたつたそらあふときは、あの、夕立ゆふだち思出おもひだす……そして
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
初霜はつしもけて、昨夜さくやえんげられた白菊しらぎくであろう、下葉したはから次第しだいれてゆくはな周囲しゅういを、しずかにっている一ぴきあぶを、ねこしきりにってじゃれるかげが、障子しょうじにくっきりうつっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
またまへつた、ものすごくらよるも、として、なつかしいひとおもへば、降積ふりつもあられも、白菊しらぎく
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
折々をり/\そら瑠璃色るりいろは、玲瓏れいろうたるかげりて、玉章たまづさ手函てばこうち櫛笥くしげおく紅猪口べにちよこそこにも宿やどる。龍膽りんだういろさわやかならん。黄菊きぎく白菊しらぎく咲出さきいでぬ。可懷なつかしきは嫁菜よめなはなまがきほそ姿すがたぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)