生々なま/\)” の例文
その二尺にしやくほどした勾配こうばい一番いちばんきふところえてゐる枯草かれくさが、めうけて、赤土あかつちはだ生々なま/\しく露出ろしゆつした樣子やうすに、宗助そうすけ一寸ちよつとおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
背負せおひ歩行あるく辨慶がのそ/\と出きたりモシ/\文さん今日は雨降あめふりで御互に骨休ほねやすみ久しぶりなれば一くちのむべし夫に今さんまの生々なま/\としたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
潜戸を入つて二三十歩行くと、新に芝地を掘り返した畑で、くはの跡も生々なま/\しいところへ、白いものが一つ落ちて居ります。
……天狗が乘りよるわいとおもてると、何んや家根の眞ん中に穴があいて、生々なま/\しい人間の手がプランとがつた。………
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
玉子たまご半熟はんじゆく、とあつらへると、やがてさらにのつて、白服しろふくからトンといて、卓子テエブルうへあらはれたのは、生々なま/\しいにく切味きりみに、半熟はんじゆくつたのである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言葉に生々なま/\しさといふものがなく、余韻が深く、それだけに、不用意に使ふと誤解され易い言葉であります。
二十代や三十代の、だ血の気の生々なま/\した頃は、人に隠れて何程どれほど泣いたか知れないよ、お前の祖父おぢいさん昔気質むかしかたぎので、仮令たとひ祝言しうげんさかづきはしなくとも、一旦いつたん約束した上は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
私の田舎の家に、末派の模写した雪舟の仏画があるが、厚い脣などには、実に生々なま/\しい苦悶の色が見え、長く切れた眼尻など、決して決して澄んだ感じのものではない。
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
くして嶺千鳥窪みねちどりくぼ遺跡ゐせきは、各部面かくぶめん大穴おほあな穿うがらした。いまでも其跡そのあと生々なま/\しくのこつてる。
其れから少し離れて、隣家となりもぎツて捨てたいわしの頭が六ツ七ツ、尚だ生々なま/\しくギラ/\光つてゐた。其にぎん蠅がたかツて、何うかするとフイと飛んでは、またたかツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
新開地だけにたゞ軒先障子などの白木の夜目にも生々なま/\しく見ゆるばかり、ゆか低く屋根低く、立てし障子は地よりたゞちに軒に至るかと思はれ、既にゆがみて隙間よりはつりランプの笠など見ゆ。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ひとうはさととも彼女かのぢよいたではだん/\その生々なま/\しさをうしなふことが出來できたけれど、なほ幾度いくどとなくそのいたみは復活ふくくわつした。彼女かのぢよしづかにゐることをつた。それでもなほそのくゐには負惜まけをしみがあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その下駄げたにておもものちたればあしもと覺束おぼつかなくてながもとこほりにすべり、あれともなくよこにころべば井戸いどがはにてむかずねしたゝかにちて、可愛かわいゆきはづかしきはだむらさき生々なま/\しくなりぬ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昂奮こうふんしないでおきなさいツ。ではこれから自分達じぶんたちみちが、どんなにけはしい、文字もじどほりの荊棘いばらみちだつてことが、生々なま/\しい現實げんじつとして、おぢやうさん、ほんとにあなたにわかつてゐるんですか……
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
は犯人が被害者を慘殺するため又屍體を竈の中へ押し込むために使用されたものでまだ生々なま/\と血と毛髮のべつとり附着せる儘竈の中より發見され、四本目の叉には染革を吊す金具が引懸つてゐた。
無法な火葬 (旧字旧仮名) / 小泉八雲(著)
當時の事を考へると、記憶は未だ生々なま/\しく、久保田君の金釦の制服姿も、昨日一昨日の事のやうに思はれるが、しかしながら十年の歳月は、流石にさまざまの變遷を物語るものがなければならない。
生々なま/\しくも吃水線は蒼ぐもる、緑の空に見入つてあれば
きみもつけたビラのあとはまだ生々なま/\しい。
みん拔放ぬきはなしければ鍔元つばもとより切先きつさきまで生々なま/\しき血汐ちしほの付ゐるにぞコレヤおのれは大膽不敵なる奴かな是が何より證據なり何處どこで人を殺し夜盜よたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だが、そこへ行つて見ると、又新しい事件が、生々なま/\しい傷口を開けたまゝ、平次の來るのを待つてゐたのです。
……同伴つれのなじみのはかも、まゐつてれば、ざつとこのていであらうとおもふと、生々なま/\しろ三角さんかくひたひにつけて、鼠色ねずみいろくもかげに、もうろうとつてゐさうでならぬ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
艦隊の出動には、また別個の感激的場面を伴ふものだが、汽車で運ばれる軍隊といふものには、不思議に生々なま/\しい「生活の歌」があることを彼は気づいてゐた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ところ/″\にのぼり提燈ちやうちんを立てたらしい穴が、生々なま/\しく殘つてゐて、繩のはしのやうなものも、ちよい/\散らばつてゐるのは、祭があつてから間のないことを思はせた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
やがて私のやさしい心は、沈欝にして生々なま/\
敷居に飛沫しぶいた血潮は、大方拭き取つたやうですが、まだ生々なま/\しく殘つて、何となくぞつとさせます。
「これは生々なま/\としたにほひだ。眞個まつたく人臭まひとくさい。」
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あやめしが如くまだ生々なま/\しきあぶらういて見ゆればさすがに吉兵衞は愕然ぎよつとして扨ても山賊の住家なりかゝる所へ泊りしこそ不覺ふかくなれと後悔こうくわいすれど今は網裡まうりの魚函中かんちうけものまた詮方せんかたなかりければ如何はせんと再びまくらつきながらも次の間の動靜やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)