漸次ぜんじ)” の例文
ワットはこの外にいろいろの特許をも得ましたし、それらによって名声が漸次ぜんじに高まったので、晩年には幸福に過ごすことができました。
ジェームズ・ワット (新字新仮名) / 石原純(著)
かくて日本には今「遊民」という不思議な階級が漸次ぜんじその数を増しつつある。今やどんな僻村へきそんへ行っても三人か五人の中学卒業者がいる。
かくて水車すいしゃはますますぶじに回転かいてんしいくうち、意外いがい滑稽劇こっけいげきが一を笑わせ、石塊せっかいのごとき花前も漸次ぜんじにこの家になずんでくる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
見る(略)しかもこの特色は或る一部に起りて漸次ぜんじに各地方に伝播でんぱせんとする者この種の句を『新俳句』に求むるも多く得がたかるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こう云う風にして、漸次ぜんじにAnまで行ったとすると、どんなものでありましょう。甲と乙とは別人であります。乙と丙とも別人であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
障子も一時は黄色に見えたが漸次ぜんじ薄暗くなって、子供等の鬼事おにごとの声も遠ざかってしまうと、遥かにボーッ、ボーッと蒸汽船の笛の音が聞える。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これを衆人注視の中に持去りたる神変不思議の人物こそ、ミス黒焦事件の有力なる嫌疑者に非ずやとの疑い、関係者間に漸次ぜんじ高まりつつ在り。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが漸次ぜんじに地にひれ伏すうめきのように陰にこもり、太い遠吠とおぼえの底おもくうねる波となり、草叢くさむらを震わせる絶え絶えな哀音に変ったかと思うと
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ところがその結果は、運命のいたずらが過ぎたのです。彼等の、パッシヴとアクティヴの力の合成によって、狂態が漸次ぜんじ倍加されて行きました。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中央の江戸城を始め、諸大名の屋敷が並び、人の往き来はしげく、町々は栄え、風俗や言語やその他すべての面で漸次ぜんじに江戸の文化を築き上げました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それよりは漸次ぜんじ快方におもむきければ、ひとえに神の賜物たまものなりとて、夫婦とも感謝の意を表し、そののち久しく参詣を怠らざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
氏の崇拝者は欧洲の諸国にわたつて漸次ぜんじ増加してく様である。巴里パリイではヷランティイヌ・ド・サンポワン女史が氏の高弟と称すべきぢよ詩人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
漸次ぜんじ熱烈にしてしかも静平なる肉親的感情に変化したるは、いつに同氏が予の為に釈義したる聖書の数章の結果なりき。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしその材料ざいれう構造こうざう依然いぜんとして舊來きうらいのまゝで、耐震的工風たいしんてきくふうくはふるがごと事實じじつはなかつたので、たゞ漸次ぜんじ工作こうさく技術ぎじゆつ精巧せいこうすゝんだまでである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
これ輓近ばんきん各国の識者間に世界平和論が盛んに唱えられ、漸次ぜんじ勢力を得つつあるゆえんである。しかしてまた我輩が世界平和の曙光を確認するゆえんである。
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
敵機の本土爆撃は漸次ぜんじ頻繁ひんぱん、大規模となりつつあるが、四月十六日から五月三十一日までの空襲被害状況とその特色が、当局の調査によってまとめられた。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
予が漸次ぜんじ浮腫をきたすや、均しく体温上昇し、十二月は実にやまいの花盛りなりしが如し、然れども足を引摺ひきずりながらも、隔時の観測だけは欠くことなかりしが
これに反して上士はいにしえより藩中無敵の好地位をしむるが為に、漸次ぜんじ惰弱だじゃくおちいるは必然のいきおい、二、三十年以来
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まげにはあぶらつて上手じやうずけた金房きんぶさすこしざらりとして動搖ゆらめいた。巫女くちよせ漸次ぜんじうてくうちに
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このように人々は大異変の起こったことを最初に理解しなかったために、漸次ぜんじ大きい災害に巻き込まれていった。が、さらにもう一つ、それを手伝った不幸がある。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
都会の水に関して最後に渡船わたしぶねの事を一言いちごんしたい。渡船わたしぶねは東京の都市が漸次ぜんじ整理されて行くにつれて、すなはち橋梁の便宜を得るに従つてやがては廃絶すべきものであらう。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
昭和十二年の七月、北支ほくし蘆溝橋ろこうきょうに起った一事件は、その後政府の不拡大方針にもかかわらず、目に見えない大きい歴史の力にひきずられて、漸次ぜんじ中支に波及して行った。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
且つ尊親夫婦は最も喰味しょくみの調理に意を用いて、漸次ぜんじに喰量を増し、粥をも少しずつを濃くせり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
この地方でもぐんぐん勢力を張って来るなどの結果から、漸次ぜんじ、領土をせばめられて、肩身をかがめているしかなかった不平武族が、「時こそ」と、笠置、赤坂の一挙に
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しか爲替相場かはせさうば騰貴とうきした割合わりあひには低落ていらくせざるのみならず七ぐわつ以來いらいつね非常ひじやう好賣行かううれゆきであつて爲替相場かはせさうば漸次ぜんじ騰貴とうきするにかゝはらず九ぐわつりては千三百五十ゑんとなつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
その性質は非常に怯懦きょうだであって亡国人ぼうこくじんのごとく全く精気がない。けれどもそれかといってこの種族が漸次ぜんじ全滅に帰する傾向があるかというに、そういう傾向も現わして居ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうした恐怖が一旦人の心にわだかまると、何か悪い出来事が起るまでは、その恐怖心が漸次ぜんじに膨脹して行って、遂にその恐怖心そのものが、怖ろしい出来事を導くに至るものである。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼らの重立った人々が近ごろ組織せんとつとめた、この根源の力の巨大な集団から、一つの灼熱しゃくねつが、電波が、発散し出して、それが漸次ぜんじに、人類社会の胴体中へ伝わったのである。
ついに戦死せるもののごとく、広瀬中佐は乗員をボートに乗り移らしめ、杉野兵曹長の見当たらざるため自ら三たび船内を捜索したるも、船体漸次ぜんじに沈没、海水甲板かんぱんに達せるをもって
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もし、モスタアが沼沢しょうたく地方のあしの奥か、海岸の洞窟にでもひそかにかくしたものなら、餓死が漸次ぜんじにチャアリイを把握して、いまごろは、小さな白骨がまだらに散乱しているにすぎまい。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
藤代ふじしろより切目王子きりべおうじ、次いで熊野と辿り辿り、漸次ぜんじ一行は十津川とつがわの方へ向かった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今度降りる客が大分居るらしく、座席を立ちかける人も居るし、出口の方へ押し掛って行く者も居た。こうしてお互の関係位置は漸次ぜんじに移動した。彼も出口へと急いで居る人の一人であった。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
軽快調から漸次ぜんじ急調子に。——画家が自分の遊民的生活に感じる不満。しかも社会事業家型の姉娘よりも、純な妹娘の方にかれる心の矛盾。妹娘との親しみの急速な深まり。会話。幸福感。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
殊に毎年の節供せっくという式日しきじつの価値が、漸次ぜんじ稀薄きはくとならざるを得なかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「東京にいないんだもの」言葉が親しみをこめて漸次ぜんじ乱暴になっていく。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
露西亜ロシヤには我等社会民主党の外に社会革命党あり、彼はバクニンの系統に属するものなり、我等は今日こんにちに於ていまだ両者の融和を見るあたはざるを悲むといへども、其の漸次ぜんじ接近親和すべきは疑を要せず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
七十八 けれど厄介な事には良心という奴がある、この心は太古からの無数の年月を経て漸次ぜんじにこの人種の脳髄に発達して来たのだから、ただこの心が自分で自分の生命を軽んずることを許さぬのだ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
初め火と熱せる地球も漸次ぜんじ冷却してようやく生物の育ち得るに至った。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
それでも本性ほんしょうたがわず、漸次ぜんじ停留場へ近づく。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし玄白も漸次ぜんじ年を経るに従ってさらに完全なものをつくり上げようと考え、この「解体新書」をもう一度改刻しようと志していたのでしたが
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
爾來じらい日本建築にほんけんちく漸次ぜんじ進歩しんぽして堅牢けんらう精巧せいかうなものをしやうずるにいたつたが、これは高級建築かうきふけんちく必然的條件ひつぜんてきでうけんとしてあらはれたので、地震ぢしん考慮かうりよしたためではない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
歌詞の句切り句切りには、恐しい怒号と拍手が起った。男も女も、酔が廻るにつれて、漸次ぜんじ狂的にはしゃぎ廻った。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでは壁の下の土手の中頃にいるに相違ない。煙はぬぐうがごとく一掃ひとはきに上から下まで漸次ぜんじに晴れ渡る。浩さんはどこにも見えない。これはいけない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漸次ぜんじ河が谿たにに沈むを思えば道が坂にさしかかったことが分る。みょうじ峠をくだると県標が佇む。福岡県から大分県に入るのである。筑後が豊後ぶんごに代るのである。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
漸次ぜんじ増加する所の早稲田学園の学生諸君、もはやかくの如く群衆する所の多数の学生をるる家のないということは諸君に対してはなは申訳もうしわけのないことである。
始業式に臨みて (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「そんでもどうにかうちこせえたから、ぢいこともれてくべよなあ」おつぎのこゑ漸次ぜんじうるんでひくくなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
住居の類は先づわが肉体をおかして漸次ぜんじにわが感覚を日本化せしむると共に、当代の政治ならびに社会の状態は事あるごとに宛然えんぜんわれをして封建時代にあるのおもいあらしめき。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでアメリカでは、近年は一週五日制をとっているところが大部分を占めている。官庁や大会社は既にこの五日制をとり、小さい会社なども漸次ぜんじ五日制になりつつある。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
十九年の十一月頃、ふと風邪ふうじゃおかされ、漸次ぜんじ熱発はつねつはなはだしく、さては腸窒扶斯チブス病との診断にて、病監に移され、治療おこたりなかりしかど、熱気いよいよ強くすこぶ危篤きとくおちいりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
爲替相場かはせさうば騰貴とうきしたのにれて七ぐわつ以來いらい漸次ぜんじ低落ていらくしてて、まへべた日本銀行にほんぎんかう卸賣物價指數おろしうりぶつかしすうると、十ぐわつには百七十一・九四となり四箇月かげつかんに四・三七すなはち二りん下落げらく
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)