さかのぼ)” の例文
赤道直下にあるボルネオのポンチャナクから少しさかのぼった上流に作られるというのは実に、寧ろ当然であるといってもいいじゃないかね
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
はだかに半纒はんてんだけ一枚着てみんなの泳ぐのを見てゐる三十ばかりの男が、一ちゃう鉄梃かなてこをもって下流の方からさかのぼって来るのを見ました。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
これはあなた方も御同感だろうと思います。なおさかのぼりますと——もうたくさんですか、しかしついでだから、もう一つ申しましょう。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
摂津国屋の墓石には、遠く祖先にさかのぼって戒名が列記してあるので、香以の祖父から香以自身までの法諡ほうしは下列の左の隅に並んでいる。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
以上の話は、津村の祖母が亡くなった年のことであるから、宮滝みやたきの岩の上で彼が私に語った時からはまた二三年前にさかのぼる事実である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
郊外かうぐわい際涯さいがいもなくうゑられたもゝはなが一ぱいあかくなると木陰こかげむぎあをおほうて、江戸川えどがはみづさかのぼ高瀬船たかせぶね白帆しらほあたたかえて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
端艇はどんどん上流にさかのぼつた。橋をくゞると、もう醉月は見えなかつた。三田は汗をかく迄踏張つて、中之島の方迄漕いで行つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
さて我は今、汝の願ひをすべてよく滿たさんため、さかのぼりて一の事を説き示し、汝をしてわが如くこれを見るをえしめむ 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
S——町のはずれを流れている川をさかのぼって、重なり合った幾箇いくつかの山裾やますそ辿たどって行くと、じきにその温泉場の白壁やむねが目についた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「イシカリよりさかのぼること十里のツイシカリは伏見に等しき地となり、川舟三里をのぼりサッポロの地ぞ、帝京の尊きにも及ばん」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
病友はまたずっとさかのぼった幼時の思い出を懐しもうとするのか、フライパンで文字焼を焼かせたり、炮烙ほうろくで焼芋を作らせたりした。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
少なくとも文化ぶんか文政ぶんせい頃まではさかのぼろうと思う。極めて多量に生産せられたそろいものであって、販売せられた分布区域もはなはだ広汎こうはんである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
古くさかのぼって行けばいかなる信仰でも、みんな説明がつかなくなることは同じであろうが、この点は特に注意してよい不可解であると思う。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
戯曲において、題材は時に神話にさかのぼり、封建の武人生活に戻り、西郷南洲からお吉に迄拡がるが、根本の課題は常に変らない。
山本有三氏の境地 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この詩型があれほど流行を見るようになったのも万葉時代からそれほど遠くさかのぼるものでなかったろうことも注意されてよいことなのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
未明みめい食事をおはりて出立し又水流すいりうさかのぼる、無数の瀑布を経過けいくわして五千五百呎のたかきに至れば水流まつたき、源泉は岩罅かんこより混々こん/\として出できた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
勝見を訊問することにより笛吹川画伯の頓死にさかのぼり、赤耀館事件の一切が明白になると考えて、夜の目も睡られぬほどに興奮していました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこでクリイムパンを喰べあんこ玉を喰べ、シャツ一枚になって、大三角を廻り東の川口から川をさかのぼって帰った。石井信次に手紙を書いた。
下仁田しもにた街道から国境を越えて、信州の南佐久へ入った山崎譲と七兵衛は、筑摩川ちくまがわの沿岸をさかのぼって、南へ南へと走りつづけます。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くわしいことはあと追々おいおいはなすとして、かく人間にんげん竜神りゅうじん子孫しそんそちとてももとさかのぼれば、矢張やはりさるとうと竜神様りゅうじんさま御末裔みすえなのじゃ。
昔にさかのぼりますと、有名な書というものは、いずれも芸術的であります。また稀には有名な書の中にも、芸術的でないものもあるのであります。
だが其すら、時としては、技術者の習練によって、第二国語——一層さかのぼって詩語としての鍛錬たんれんを経た古語を用いて、効果をあげることがある。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
目をつぶつておもふと、日本の東北の山村であつても、徳川の世を超え、豊臣、織田、足利から遠く鎌倉の世までもさかのぼることが出来るであらう。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
更に又過去にさかのぼれば、大いなる支那は彼等の為にどの位先例を示したであらう? 彼等は或は彼等の模倣は「消化」であると云ふかも知れない。
いちどそのみん国へお渡りあって、長江千里ちょうこうせんりという流れをさかのぼり、南宗北画なんそうほくがなどによくみるような程よきところに、茶室をお建てになってはいかがで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古代にさかのぼって見ればいずれの国民も一婦多夫であり、また一夫多妻であった。また家長族長としての権利を男よりも女の方が多数に所有していた。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
下富良野しもふらので青い十勝岳とかちだけを仰ぐ。汽車はいよいよ夕張と背合はせの山路に入つて、空知川そらちがはの上流を水に添うてさかのぼる。砂白く、水は玉よりも緑である。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
自動車じどうしやは、にも、ふちにも、たきにも、ほとんみづとすれ/\に、いや、むしながれ真中まんなかを、のまゝになみつてふねごとくにさかのぼるのであるから。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は首をすくめ、ふところ手をしながら、落葉や朽葉とともにぬかるみになった粘土質の県道を、難渋なんじゅうし抜いて孵化場ふかじょうの方へと川沿いをさかのぼっていった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此の如きは冷遇の極度といはざるを得ず。しかれども有形上の事は当時の事実にさかのぼりて論ぜざるべからざるを以て一々これを探究するのいとまなかるべし。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
またさかのぼっていうとメイジ時代から固陋な思想の存在したのも、根本的には、日本人の文化の程度が低く教養が足らず、特に批判的な精神を欠いていて
汽車はいよ/\夕張と背合わせの山路やまじに入って、空知川そらちがわの上流を水にうてさかのぼる。砂白く、水は玉よりも緑である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
而して其の源は中世紀の文学者リシャール・ド・ビュリーの著わすところ『フィルビブリン』迄さかのぼるそうである。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
空では雲雀ひばり気忙きぜわしく、ひっきりなしに歌を唄い、千曲川の流れるほとりからは、川をさかのぼる帆船の風にはためく音がする。二人はやっぱり黙っていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なほ其前そのまへさかのぼつてまうしますると、太閤殿下たいかふでんか御前ごぜんにて、安楽庵策伝あんらくあんさくでんといふ人が、小さいくは見台けんだいの上に、宇治拾遺物語うじしふゐものがたりやうなものをせて、お話をたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
基督キリスト教国たる欧米諸国は東洋の異教国と異なり、女子の地位をすこぶる高めて認めているようだけれども、これを希伯来ヘブライ希臘ギリシャ羅馬ローマの古代にさかのぼってみれば
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
物理的科学発展の歴史にさかのぼれば、到る処かくのごとき方則の予想によって原因の分析、すなわち最も便宜なる独立変数の析出につとめたる痕跡を見出し得べし。
自然現象の予報 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
長兄たちは橋を廻って向岸へ行くことにし、私と二番目の兄とはまた渡舟を求めて上流の方へさかのぼって行った。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
帆もかじも無い丸木舟が一そうするすると岸に近寄り、魚容は吸われるようにそれに乗ると、その舟は、飄然ひょうぜん自行じこうして漢水を下り、長江をさかのぼり、洞庭を横切り
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
上は星辰せいしんの運行から、下は微生物類の生死に至るまで、何一つ知らぬことなく、深甚微妙しんじんみみょうな計算によって、既往のあらゆる出来事をさかのぼって知りうるとともに
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ずつと以前いぜんさかのぼつて、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼつ當時たうじ實况じつけう小端艇せうたんてい漂流中へうりうちうのさま/″\の辛苦しんく驟雨にわかあめこと沙魚ふかりの奇談きだんくさつた魚肉さかな日出雄少年ひでをせうねんはなつまんだはなし
五十銭図譜を眺めていると、手にしたことのない人も、なにかしら日本の国力は、明治をさかのぼるにしたがってゆたかだったような錯覚におそわれるかもしれない。
明治の五十銭銀貨 (新字新仮名) / 服部之総(著)
やがて談話はなしはそれからそれへと移って遂には英一蝶はなぶさいっちょう八丈島はちじょうじまへ流された元禄の昔にまでさかのぼってしまったが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私の過去の記憶はイクラ考え直しても、今朝けさ暗いうちに聞いた「ブーン」という音のところまでさかのぼって来ると、ソレッキリ行き詰まりになってしまうのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昔からヒンヒンときまっていたように思われるが、ずっと古い時代にさかのぼると案外そうでなかったらしい。
駒のいななき (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
もう千住くらいまでさかのぼって練習しているのであろう、工科の艇もつないでない。法科も漕ぎ出してしまった。医科と文科の艇だけがいつも朝はおしまいまで残された。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
よくそれに沿つてさかのぼつて行くことが好きだつたが、今から百二三十年前に、江戸に橘樹園きつじゆえんといふ人があつて、多摩川の上流に興味を持ち、何遍となくそれに溯つて
水源を思ふ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
指定になった月までさかのぼって支給したいと申し出でたが、先刻から、止むを得ず、千五百六十円は承認したものの、忿懣ふんまんやるかたなく思っていた民政党の参事会員は
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は速い水の流れをさかのぼって、小石伝いの道をやって来る。というのが、彼は泥も水草も好きではない。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それは気持で何物とも言えませんが、まあ魂とでも言うのでしょう。それが月から射し下ろして来る光線をさかのぼって、それはなんとも言えぬ気持で、昇天してゆくのです。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)