ふみ)” の例文
われ、その死者とは何人ぞ、此ふみは何人の手より出でしぞと問ふに、マリア、そは御身の祕密なるものをとて、起ちて一間を出でぬ。
しかはあれ、人もしわれらのふみ一枚ひとひらまた一枚としらべなば、我はありし昔のまゝなりとしるさるゝ紙の今なほあるを見む 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
余が借しつるふみを讀みならひて、漸く趣味をも知り、言葉の訛をも正し、いくほどもなく余に寄するふみにも誤字少なくなりぬ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
だから元より、和歌の道とか、香を聴き分ける事とか、そういう上﨟じょうろうたちの風雅みやびも知らねば、難しいふみむ知識も持たなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たれこめてふみ読む窓の内にまでも其香をしのび入らせ、我ありと知らせ顔に園の隅などにてひそかに風に嘯ける、心にくし。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして我が手に渡されたは菊一文字の短刀と陰陽秘伝の一巻のふみ……それからこの身の変わりようは今思うても目覚めざましい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「しかせずば願わくは汝の書きしるし給えるふみの中より、わが名をし去り給え」とまで祈ったのです(民数紀略一二の三、出エジプト記三二の三二)
◯二十三、四節には三つのねがいが記されている。第一は「望むらくはわが言の書き留められんことを」である。第二は「望むらくはわが言ふみに記されんことを」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
洒落は礼に反するなどと書いた未だふみも見ずという浩然の気が、天のはしたなく湧いて来たことであった。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
(そのふみは重く、かつ強し。その逢うときの容貌かたちは弱く、ことばいやし。)と言われ、パウロは無念そうに
パウロの混乱 (新字新仮名) / 太宰治(著)
昔上田秋成は年頃いたづきけるふみ深き井の底に沈めてかへり見ず、われはそれだに得せず。ことし六十むそあまり二つの老を重ねて白髮しらがかき垂り齒脱けおち見るかげなし。
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
せめてはこのふみ見せまして、もとの浅木様に立帰らせましたしとの願ひ、ともすれば起こるを、あながち清き心よりの望みとのみ思はれぬ一ツぞ今はの憾みなる……。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
召捕れとて、武士ら十人ばかり、太郎をさきにたててゆく。豊雄、かかる事をもしらでふみ見ゐたるを、武士ら押しかかりて捕ふ。こは何の罪ぞといふをも聞き入れずからめぬ。
そが中にしやを築きて居れるは膠州の黄生とて、終日ひねもすふみ読みくらしたる。ある日のことなりき。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「この両年は実生活の上に於いて不思議に悲歎のつづいたとしであつた。」と書き、又、その歌集のなかの、「ひとり寝にすでに馴れつつ枕べにふみをかさねてあかりを消しぬ」
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
夫人 どうぞいの、あのやうなおかた可愛いとしいとおもはぬか? 今宵こよひ宴會えんくわいには彼方あのかたゆるはず、パリス殿どのかほといふ一卷ひとまきふみんで、ふでものしてあるなつかしい意味いみをばあぢはや。
天文地理の学は言ふに及ばず、器械の巧みなること人の目を驚かし、医薬製煉せいれんの道ことにくはしく、そのふみどももつぎつぎと渡りきたりて世にひろまりそめたるは、すなわち神の御心であらうでござる。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
和歌の上手なりしその祖母及び今も變らず月雪花つきゆきはなの折にふれては詠み出づる母を見眞似て、われは假名文字のふみ多く好みて讀みしが、初めて三十一字の歌つくりならひしも十二三の頃にかありけん。
驚破すはやと、母屋おもやより許嫁いひなづけあにぶんのけつくるに、みさしたるふみせもあへずきててる、しをりはぎ濡縁ぬれえんえだ浪打なみうちて、徒渉かちわたりすべからず、ありはすたらひなかたすけのせつゝ、してのがるゝ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かき集めつゝ幾巻いくまきふみにものしてつぎ/\に発兌うりだすこととはなしぬ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
千代へぬるふみもしるさずわだつ國の守りの道は我ひとり見き 林子平
愛国百人一首評釈 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
楽しみとふみは読みしか味気なしゆとりとてあらず読むを聴きつつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蕉翁が余の前にひろがれる一巻のふみなること、是を以てなり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
たのしみは、めづらしきふみひとり、はじめ一枚ひとひら ひろげたるとき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
わがぬかむちもて打つは誰がわざぞ見覚めて見れば手の上のふみ
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかしこれも古き風俗と見え、『滑稽太平記こっけいたいへいき』といふふみ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かしこうて蚊帳にふみよむおん方にいくつ摘むべき朝顔の花
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
二分心にぶしんのくらきラムプに読み難し高嶺の寺のカンにあるふみ
ふみ読むは無為の一つや置炬燵おきごたつ
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
手にとるふみを讀みさして
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
うれひ知るといふふみける
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一卷の ふみをくはへし
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
われらがふみに順ひて
〔われらが書に順ひて〕 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
この時彼叫びていひけるは、汝既にこゝに立つや、ボニファーチョよ、汝既にこゝに立つや、ふみは僞りて數年を違へぬ 五二—五四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この二通は殆ど同時にいだしゝものなれど、一は母の自筆、一は親族なるなにがしが、母の死を、我がまたなく慕ふ母の死を報じたるふみなりき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
今の噴火の景などは言ふに足らず。プリニウスのふみに見えたる九十六年の破裂は奈何いかゞなりけん。灰はコンスタンチノポリスにさへ降りしなり。
梅茶亭を出る前に、使いにふみを持たせて密告してやった奉行与力の者が、早くもここへ駈けつけて来たなと知って、御方の小憎い笑靨えくぼに、勝ち誇った色がありありと泛かぶ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
狭手彦の軍をひきひて、任那みまなを鎮め、また高麗こまちしことはふみに見ゆ。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
古聖賢のふみを読むことによって、本当の人間や本当の世間を、感じ見ることができるのだと。……書斎の人間になりましたのは、こういう意味からでございます。……だがなんて俺は馬鹿なんだ!
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拾遺しゅういの三代集に、後拾遺、金葉、詞花、千載、新古今の五つを加えて、世にいう八代集をはじめ、源実朝卿の金かい集、西行坊主の山家集、まった吉野朝三代の新葉集にいたるまで、凡そ歌のふみにして
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
播磨はりまの国加古かこうまや丈部はせべもんといふ博士はかせあり。清貧せいひんあまなひて、友とするふみの外は、すべて調度の絮煩わづらはしきいとふ。老母あり。孟氏まうしみさをにゆづらず。常に紡績うみつむぎを事として左門がこころざしを助く。
読みさしてゆとりあるまのうらぎやが楽しみとふみは読みける
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
けふもまた何か気がかりになる事あり虫ばみしふみいぢり居れども
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふみとぢよ、筆けかしといざなふは
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
ぬか寄せて心ひつつ読みしふみなれ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なしの花月にふみ読む女あり
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ふみ行李かうりの底にさがす日
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わがふみに落つ
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
かれのしづくとともに汝そののちふみのうちにて我にこれをしたゝらし、我をして滿たされて汝等の雨をほかの人々にも降らさしむ。 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
起き出でし時の心細さ、かゝる思ひをば、生計たつきに苦みて、けふの日の食なかりし折にもせざりき。これ彼が第一のふみあらましなり。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)