そこな)” の例文
そなた達の大事な武器の呪いは今やぶそこなわれようとして居るのだ。汝等みな生物の形をとって、この一期の戦いに味方となって呉れ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肥桶こいたごを台にしてぶらりと下がる途端拙はわざと腕をぐにゃりとろしてやりやしたので作蔵君は首を縊りそこなってまごまごしておりやす。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやしくもその詩興をそこない、趣味しゅみを害するようなものは——人でも、家具でも、物音でも——絶対にその家庭に入れなかった。
幾度いくたびえ、幾度殺されそうにしたか解らないこのそこないの畜生にも、人が来て頭をでて、おまけに、食物くいものまでも宛行あてがわれるような日が来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
狸のそこなひは面白いね。僕も時々自分をさうか知らと思ふ事があるよ。だが、世間は寛容おほやうなもので、その化け損ひの僕の画を
物思ひを多くするらしいと見られてもなほ美をそこなはぬ程度の花であつて、人はまた恋に痩せながらも更らに其れよりも幸福なやうに思はれる。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
人をも身をもそこない傷つけた。私はそのときから畏れる心を知った。他人の運命を傷つけてはならない。われとわが聖霊をうっしてはならないと。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あたりまえだ! おばばのようなくたばりそこないが生きていなければ、おれは、どんなことをしても、もいちど、お通の気持を
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴫をつのはこれが初めてだ。彼は以前に、父の猟銃で、うずらを一羽殺し、鷓鴣しゃこの羽根をふっとばし、兎を一匹そこなった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
帆村探偵ともあろうものが、ヒョイと立って手を伸ばせば届くような間近まじかに、何時間も坐っていた殺人犯人をノメノメと逮捕しそこなったのだった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金を使ひすぎたとか、着物を買ひそこなつたといふやうな事があつても、何時までもそれを気にするやうなことはなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
うっかりその殿様の悪口あっこうをいえば、親方の御機嫌がこの通りにそこなわれるということだけは、この際、ハッキリと経験したから、以後は自分も慎み
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何かの間違いにより(恐らくここでも綴じ目の切れた際の重ねそこないとして、)現在の場所に移したためと見るのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
単に先生のお気持ちをそこなうだけにすぎないと思いますのでそれは省略いたしますが、とにかく、各府県の社会教育課の青年ないし青年団の方針が
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「おれは遅参者だ……一足遅れたばかりに、きっとおれを喜ばせたに相違ない、何かの惨事に立会いそこなった不運者だ」
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
なら、将軍家の御機嫌をそこなった溝口豊後が主水之介の口を永久に封じて、首尾つくろい直そうと放った刺客か——。
また彼の技倆ぎりょうを疑える者は、彼がそこなえばよい、自分が代って見事にって見ようというものもあったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その友と我とを見るなざしはかどある如く覺えらるれど、姫が待遇もてなしのよきに、我等が興はそこなはるゝに至らざりき。
蹴込けこみ片足かたあしけてつてたのでは、おほいに、いや、すくなくとも湯治客たうぢきやく體面たいめんそこなふから、其處そこで、停車場ていしやぢやう出口でぐちさくはうひらいて、悠然いうぜんつたのである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不幸にしてふきそこなって蝋を流してしまったので、折角苦心してこしらえた馬の形は跡形もなくなってしまった。
お言葉ですが、私は、剛子さんが、金などで性情がそこなわれるような方でないと信じています。……では、最後の決定をする前にこういうことをしましょう。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其の間に余程手間が取れるから往々貰いそこないます、少しなれて来ると、有難う存じますとすぐに扇からてのひらへおあしを取る様に成る、もう一歩慣れたらうなりますか
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
気の利いた女中が掃除の済んだ跡で、飛石に雑巾ぞうきんをかけましたら大層喜ばれましたので、それから何か母の機嫌をそこなうと、すぐ飛石洗いをすると笑われました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
かしここゝの崩れそこなはれて、歩み行くこと難き道となりたれば、わびしうぞおぼすらむ。家あるじは疾く庭のあなたなる茶の湯ものする囲に移りてぞおはする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
産終うみをはるまでの困苦こんくのために尾鰭をひれそこなやせつかれ、ながれにしたがひてくだり深淵ふかきふちある所にいたればこゝにしづつかれやしなひ、もとのごとく肥太こえふとりてふたゝながれさかのぼる。
然るに今はこれに登らんとて地より足を離す者なし、わがおきては紙をそこなはんがために殘るのみ 七三—七五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それを聞きそこなったと見えて、愛知県葉栗はぐり郡でマンガ、福井県の一部には是をマングヮという語さえある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は有喜子の盗みそこなった書類をこんどは私に盗み出せ、その誓いをしろというのです。誓わないと云えば、その場で私も彼女と同じ運命にならなければなりません。
機密の魅惑 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
夫としては足音を忍ばしたわけではなく、全く普通の歩き方で階段を下りて来たのを、たまたま私が注意をらしていたために聞くべき音を聞きそこなったのであろう。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
清水さんが最早もう来ていた。安楽椅子に腰を下して泰然たいぜんとしている。けれども彼れは泰然の出来そこないだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
足芸の利用 さてこういう時に急いでやるときっと踏みそこなうからまあそろそろやるべしと考えしずかにその杖に力を籠めて自分の身体を上に上げることに掛りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その後その木を伐らずその児長じても自分と同名の木を一切伐らずそこなわぬ。またその実をも食わぬ。
俺たちの無能力が彼を怒らせさえしなければ、彼は実に人の善い無邪気な子供のような男だ。八戒はいつもすごしたりなまけたり化けそこなったりして、怒られどおしである。
人をそこないて己れを益するにあらず。利をともにせば小なりといえどもかえりて大なり。利をともにせざれば大なりといえども還りて小なり。いわゆる利とは、義の嘉会かかいなり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
カーヴを切りそこなってあんなことになってしまったのです、と涙を流して言っていたんだ。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
さかずき持つ妓女ぎじょ繊手せんしゅは女学生が体操仕込の腕力なければ、朝夕あさゆうの掃除に主人が愛玩あいがん什器じゅうきそこなはず、縁先えんさきの盆栽も裾袂すそたもとに枝引折ひきおらるるおそれなかりき。世の中一度いちどに二つよき事はなし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
越春さんの話は私のその子供心をそこなうものであった。助ちゃんのことを口汚く云った言葉が、私に助ちゃんを侮る気を起こさせずに、反って大人同士の陰口をうとましく思わせた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
やりそこなったら最後、君はどんな眼にうか分らんのだ。全く、危険きわまる仕事なのだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
この句は風が吹いている上に、濛々たる砂塵まで揚っているのだから、平安朝流の歌よみなどは閉口しそうな趣であるが、それで雲雀の感じは少しもそこなわれていないところが面白い。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
むろんやりそこなうはずはない。賊は立ちどころに即死してしまった。泣き叫ぶ久子、この呪うべき久子をそこに転がしたまま僕は表に飛び出した。そうして泥棒泥棒と叫んだわけなのだ。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
詩人の声 もうさつき……(現れる)飯を食ひそこなつて、腹がぺこ/\だ。汽車で弁当を買ふつもりでゐたら、つい寝込んぢまつて……眼が覚めてる時は、生憎あいにく汽車が動いてる時なんです。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼の小説をそこなわず、むしろ有益であったからに他ならないと思いたいのだ。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
火の串のさきで突つかれる痛みを持つてゐるから少年達は棕梠しゆろの葉の柄の長いやつで叩き落さうとするのだが、蜂の方の數が優勢であるから勢ひ慌ててしまふ、慌てると叩きそこなつてしまふのだ
めたん子伝 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
せっかく明るくなっていた気分がそこなわれるのを惜しんでもしかたがない。
父は、もうすべてが済んでしまったように、何気なく云った。が、瑠璃子にはそうは思われなかった。一度飛び付きそこなった蛇は、二度目の飛躍の準備をしているのだ。いや、二度目どころではない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あの生れそこない、何という綺麗きれいさなんだろうねえ、あんまり世間の評判が高いから中村座をのぞいたときにも、思い切って舞台すがたの美しい役者だとは思ったが、素顔が、又百倍増しなのだもの
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あれなり私は見届けそこなったが、ねらわれたとなれば祭りや闇の晩に限ったというのでもなく、蛍の出はじめたころの或る夕暮時に、村会議員のJ氏が役場帰りの途中を待伏せられて、担がれたところを
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
つめたい肌黒はだぐろ胡桃くるみの木よ、海草かいさうの髮を垂れ、くすんだ緑玉りよくぎよくの飾をしたをんなそら草原くさはらの池にひたつて青くなつた念珠ロザリオ、ぼんやりとした愛の咽首のどくびめてやらうとするばかりの望、よくを結びそこな繖形花さんけいくわ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
殊に大声に笑い出したのは地雷火になりそこなった小栗である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は探偵小説作家のなりそこないかも知れません。
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)