かか)” の例文
と云ふ詩なぞをかかげてゐるが、此れ等は何処となく、黙阿弥劇中に散見する台詞せりふ今宵こよひの事を知つたのは、お月様と乃公おればかり。」
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
北嶺ほくれいより入山あって、釈迦堂しゃかどう行在所あんざいしょにあてられ、即刻、みことのりを発せられたうえ、坊舎の上に高々と、錦の御旗をおかかげでおざった
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は肴町さかなまちを通るたびに、その寺内へ入る足袋屋たびやの角の細い小路こうじの入口に、ごたごたかかげられた四角な軒灯の多いのを知っていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう言う半三郎の復活の評判ひょうばんになったのは勿論である。「順天時報じゅんてんじほう」はそのために大きい彼の写真を出したり、三段抜きの記事をかかげたりした。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その上中央気象台の報告の中にも少なからぬ情報がかかげてある。それらの資料の全部を、ここに掲載することは不可能であり、また必要もない。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
しかし何故なぜそんな地名を暗号の上にかかげてあるのだろう? それを考えた時、帆村探偵はハタと行き止りの露地ろじにつきあたったような気がした。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれはふたたび日記を書くべく罫紙けいしを五六十枚ほど手ずからじて、その第一ページに、前の三か条をれいれいしくかかげた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「なんというあかい、うつくしいいろだろうな。」といって、若者わかものはコップのさけを、燈火あかりまえかかげてながめたりしました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この歌は民謡風な恋愛歌で作者不明のものだから、無名歌としてかかげているのである。「千鳥しば鳴く起きよ起きよ」のところはたくみつ自然である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まもなく、蛍火ほどの線香をかかげて、以前の燈籠に火を入れると、その燈籠の形が髑髏どくろになりました。竜之助は、瞬きもせずにその髑髏を見つめていると
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
問題をかかげていちいち実際と、思想というか理想りそうというか、かつておのれの心の、向上したときに抱いた考えと引きくらべてみると、年るにしたがって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ここにかかげたのはそのうちの一せつです。だい二に、十あまりの戯曲ぎきょくがあり、そのなかで、フランス革命かくめいについてのものと信仰しんこうについてのものとが、おもなものです。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
是等は玩弄品ぐわんろうひんか裝飾品か貨幣くわへいの如き用を爲せしもの容易ようゐ考定かうていする事能はずと雖も、石鏃せきぞく本來の用及ひ主要しゆゑうの用は、此所にかかげたる名稱めいせう意味いみする通り
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
その第一にかかぐべきは昔(西暦紀元前三百七十年前後)希臘ギリシャの国の一王妃の身の上に起りし奇蹟的現象なり。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
停車場の待合室にはどこの停車場にも掛かっているような、全国の、国有鉄道の地図がかかげられていた。
郷愁 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一月一日の時事新報に瘠我慢やせがまんせつおおやけにするや、同十三日の国民新聞にこれに対する評論ひょうろんかかげたり。
やがてもう一つの駅を通過したが、そのときこそ慄然ぞっとしました。そこに停車信号がかかっているのが見えて、しかも私の列車がその故障線へ飛込んでしまったのです。
酒場バーの前を過ぎて、時間表のかかげてある大時計のわきを通りかゝった時、泉原は群集の中に何ものかを見つけたと見えて、呻くような低い叫をあげてハタと足をとどめた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
版にしてここにかかげて置くが、この即席そくせきのいたずら書きが、後に私にとって甚だ重要な役目をつとめてくれ様などとは、無論その時には想像もしていなかったのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後日春琴が琴曲指南の看板をかかげ弟子を取るようになってから稽古振けいこぶりの峻烈しゅんれつをもって鳴らしたのもやはり先師の方法を蹈襲とうしゅうしたのであり由来する所がある訳なのだが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見ると廊下の上、長押なげしに掛けた槍が二本、手槍の方は提灯をかかげて見るとほこりかぶっていて、これはモノにならず、二間半の大身の槍を引下ひきおろして、毛皮のさやを払ってみると
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ベースボールいまだかつて訳語あらず、今ここにかかげたる訳語はわれの創意にかかる。訳語妥当だとうならざるは自らこれを知るといえども匆卒そうそつの際改竄かいざんするによしなし。君子くんし幸にせいを賜え。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
もう満員の札がかかって、ぞろぞろ帰る人も見受けられたにかかわらず、約束しておいた桟敷さじきのうしろの、不断は場所のうちへは入らないような少し小高いところが、二三人分あいていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幽明ゆうめい物心ぶっしん死生しせい神人しんじんの間をへだつる神秘の一幕いちまくは、容易にかかげぬ所に生活の面白味おもしろみも自由もあって、みだりに之を掲ぐるのむくいすみやかなる死或は盲目である場合があるのではあるまいか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ようやく本業の学問にも興味を持ち、金井博士かないはかせの教授振りが大いに気にいって学校へ出るのもおもしろくなった。その間には歌もたくさんできて、某々ぼうぼう雑誌へかかげたうちには恋の歌が多い。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ぽっくり下駄のお酌であったのに力を落して引返し、それから新道表町をのそり/\と歩き廻る内、とある路次の内に梅之家小歌と一人名前の御神燈が、格子の中にかかげてあるのが見附かり
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
いわく何ぞ下り去らざると、山遂に珍重してれんかかげて出で、外面の黒きを見て、卻回きゃっかいして云く、門外黒しと。潭遂に紙燭を点じて山に度与どよせむとす。山接せむとするにあたって潭便すなわ吹滅ふきけす。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
台所にそう声をかけて、茶碗を頭上にかかげた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
禁慾のそら高くかかげられてゐた
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かかぐるは危嶮きけんの旗のしゆの光
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、陣々では高橋又四郎の下手まずさをあざけり、敵がさらし物にして坂下へかかげた又四郎の首を見て帰って来る者などもあった。そして、口々に
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺人がなかったことと、それとが、今度の事件の二つの特異性だったとでも、こじつけ迷説めいせつかかげて置くかね。はっはっは
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もしやでもかかったのではないか?——わたしは咄嗟とっさにこう思いましたから、庭に向いた障子しょうじを明けるが早いか、行燈あんどんの火をかかげて見ました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かかげることになり親の家を出て淀屋橋よどやばし筋に一戸いっこを構えた同時に佐助もいて行ったのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
冬枯の不忍池しのばずのいけを思う時、わたくしは鴎外先生が小説がんの末節に用いられた叙景じょけいの筆法を想い起さねばならない。文例はここにかかげない。読者よろしくその書についてこれを見よ。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おもふに此利噐このりきは前にかかげたる獸骨器とひとしく、もり尖端せんたんとして用ゐられしものなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
去る十三日の国民新聞こくみんしんぶんに「瘠我慢の説を読む」とだいする一篇の評論ひょうろんかかげたり。
杉皮葺すぎかわぶきの仮屋根の下に墨黒々と「彰忠しょうちゅう」の二大字を書いた板額いたがくかかって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おれと山嵐は校長と教頭に時間の合間を見計みはからって、嘘のないところを一応説明した。校長と教頭はそうだろう、新聞屋が学校にうらみをいだいて、あんな記事をことさらにかかげたんだろうと論断した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良人であったその剣客の肖像も、すすけたままうつばりのうえにかかっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
救い出されたウルランド氏は、ころんでもただは起きない覚悟で、遭難記を自分の大東新報にかかげたが、それは市民たちの侮蔑ぶべつを買っただけであった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
城外には、魏軍の奏する楽の音や万歳の声が絶えまなくき立っている。蜀宮の上には降旗がかかげられ、帝は多くのきさきや臣下を連れて城外へ出た。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、セセツシヨン式の本所会館は「牛乳デイ」とかいふものの為に植込みのある玄関の前に大きいポスタアをかかげたり、宣伝用の自動車を並べたりしてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分は絵馬堂えまどうかかげてある子別れの場の押絵おしえの絵馬や、雀右衛門じゃくえもんか誰かの似顔絵の額をながめたりして、わずかになぐさめられて森を出たが、その帰り路に、ところどころの百姓家ひゃくしょうやの障子のかげから
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
メテ啼キ/新春恰モ好シ新棲ニ寄スルニ/片茅頂ヲおおヒテ多地無ク/断木門ヲささヘテ小蹊有リ/咸籍ノ流風叔侄ヲつらネ/機雲ノ廨舎東西ヲ占ム/蘆簾かかゲテ梅花ノ外ニ在ルモ/只欠ク斉眉挙案ノ妻〕この律詩に毅堂は
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
左にかかぐるは、訪問記の数節である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
左に土偶發見はつけん國名表をかかぐ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
正六面体の例の部屋に、「記者倶楽部」という標札がかかげられた。給仕がやってきて、戸棚と向き合った壁の上に、その札を釘づけにしたのであった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ために難なく乗っ取ることを得たが、蜀旗をかかげてわずか半日ともたたないうちに、士気すこぶるさかんな魏軍が、えいえいと武者声あわせてせ返してきた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜寒よさむの細い往来わうらい爪先上つまさきあがりにあがつてくと、古ぼけた板屋根の門の前へ出る。門には電燈がともつてゐるが、柱にかかげた標札へうさつの如きは、ほとん有無うむさへも判然しない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)