ゆびさ)” の例文
と客の前から、いきなり座敷へ飛込んで、突立状つったちざまゆびさしたのは、床の間わきの、欞子れんじに据えた黒檀こくたんの机の上の立派な卓上電話であった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……」彼女は返事をする代りに、前の大きい机をゆびさした。そのとき事務室の扉があいて佐和山女史のむっつりした顔があらわれた。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
エリスは打笑うちゑみつゝこれをゆびさして、「何とか見玉ふ、この心がまへを。」といひつゝ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓むつきなりき。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
少年せうねんゆびさかたながめると如何いかにも大變たいへん! 先刻せんこく吾等われら通※つうくわして黄乳樹わうにうじゆはやしあひだより、一頭いつとう猛獸まうじういきほいするどあらはれてたのである。
天竺てんじく南蛮の今昔こんじゃくを、たなごころにてもゆびさすように」したので、「シメオン伊留満いるまんはもとより、上人しょうにん御自身さえ舌を捲かれたそうでござる。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
島々の数を尽してそばだつものは天をゆびさし、伏すものは波にはらばう、あるは二重ふたえにかさなり三重みえにたたみて、左にわかれ、右につらなる。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
特殊の変化のある部分をゆびさし、助手が私の示すところを見て記載することにしてりましたので、メスを台上に置く金属性の響と
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかも総督府から指導のために出張した検事正や、警視連のゆびさす処が一々不思議なほど図星ずぼしあたる。各地の有力者が続々と検挙される。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の手が筆と関係したのは今度が初めてで、どう持っていいか全くわからない。するとその人は一箇所をゆびさして花押かきはんの書き方を教えた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
綺麗に刈込んだかしの垣を前に、後に深い杉の森をめぐらし、数多い白堊しろかべの土蔵の夕日に照されてゐるのが常に遠く街道からゆびさされた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
幾百千とも知れぬ小魚が、くるくると光の渦を巻きながら魚紋を描いているのをゆびさして、ふなじゃ、こいじゃ、といい争っていると
こういって、じきそばのテイブルの上に、色んな色の絹糸のかせがつんであるのをゆびさしたかと思うと、いきなり姿を消してしまいました。
黄金鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
余は天狗岩よりは、腰をのして、手をかざして、遠く向うをゆびさしている、袖無し姿の婆さんを、春の山路やまじの景物として恰好かっこうなものだと考えた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで早速さつそく理髪店とこやつてそのみゝ根元ねもとからぷつりとつてもらひました。おもてへるとゆびさして、ふものごとわらふのです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
眤と真黒く拭い清められた板を見上て、やがてそれをゆびさして子供を顧みた。……黒板の下の溝には白墨はくぼくが二本置かれてある。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
夫は戸の外をゆびさしてなほ去らざるを示せり。お峯は土間に護謨靴ゴムぐつと油紙との遺散おちちれるを見付けて、由無よしなき質を取りけるよとおもわづらへる折しも
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
のきの下に下っている、値の安い方のをゆびさしながら、「あああ、早く月給日が来ないかな」とため息をついたものである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此声の如何に高かつたかは、自分が悠々たる追憶の怡楽いらくの中から、俄かに振返つて、其児供のゆびさす方を見たのでも解る。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そこは林の中なれど少しく芝原しばはらあるところなり。藤七はにこにことしてその芝原をゆびさし、ここで相撲すもうを取らぬかという。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
背後うしろを青森行の汽車が通る。枕の下で、陸奧灣むつわん緑玉潮りよくぎよくてうがぴた/\ものいふ。西には青森の人煙ゆびさす可く、其うしろに津輕富士の岩木いはき山が小さく見えて居る。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
甲斐守は之をゆびさし藩中の士を顧みて、この木はわが幽閉の紀念である。今は用なければって薪木たきぎにでもせられたがよいと言って笑ったそうである。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『して此等これら何者なにものか?』女王樣ぢよわうさま薔薇ばらまはりに平伏ひれふしてゐた三にん園丁えんていどもをゆびさしてまをされました、何故なぜふに、彼等かれら俯伏うつぶせにてゐるし
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
陪乗したるは清洒せいしやなる当世風の年少紳士、木立の間に逍遙せうえうする一個の人影を認むるやゆびさしつつ声をヒソめ「閣下、彼処かしこを革命が歩るいて居りまする」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
曉方あけがたのはつきりした夢の中で私は彼女がソーンフィールドの門を私の前にめ、別の路に行けとゆびさしてゐるのを見た。
背後うしろを青森行の汽車が通る。まくらの下で、陸奥湾むつわん緑玉潮りょくぎょくちょうがぴた/\ものいう。西には青森の人煙ゆびさす可く、其うしろ津軽つがる富士の岩木山が小さく見えて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蜃氣樓よと漁父等は叫びて、相ゆびさしてたのしみ笑へり。彼の漁父の子のみは獨り笑はざりき。知らずや、かの樓閣はわが昔少女と共に遊び暮しゝ處なるを。
「あれがおよしの色男だ」とその女の名を言つて、うちの人が私にある時計屋の職人をゆびさして見せたことが有つた。私は初めて「色男」といふ言葉を覚えた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
洞穴ほらあなの中に一筋のあかりが差し込んでいる。それは巌の裂目さけめで、そこへ近づいてみると、かたわらにつっ立っている奇巌城が見える。ガニマールはゆびさしていった。
やがてかまどのもとに立しきりに飯櫃めしびつゆびさしてほしきさまなり、娘此異獣いじうの事をかねてきゝたるゆゑ、飯をにぎりて二ツ三ツあたへければうれしげに持さりけり。
幾松が平次を案内して、ゆびさしてくれたのは、お勝手に近い生垣の袖のところで、其處は陽當りが良いせゐか、土がよく乾いて、足跡らしいものもありません。
と彼女は傍若無人と云つてもよいやうに、一番縁側の近くに坐つてゐる、若いモーニングを着た紳士をゆびさした。紳士は、柔順すなほにモヂ/\しながら立ち上つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
逃げても/\振り返つて見るときよとんとして此方をゆびさしてゐる、海の砂原だか野原だか解らない何んにもない広々としたところでね、俺の脚はとても軽いんだ
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
天才と云ふ言葉は、動もすると努力に因らずして得たる智識才能をゆびさすが如く解釋されてゐるのが、世俗の常になつて居る。が、其れは皮相の見たるを免れない。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
百人のゆびさすところにて、「何某なにがしたしかなる人なり、たのもしき人物なり、この始末を託しても必ず間違いなからん、この仕事を任しても必ず成就することならん」
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見れば半分裸のこの島の土人が四五人と、何か長い竿さおの先に丸い網をつけて、胴乱どうらんをさげた洋服姿の人が二人立って、木の上を見上げてはゆびさして話しておりました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
時流外なみはづれに粗大なる布衣を着て鐵卷くろがねまきの丸鞘を鴎尻かもめじりよこたへし後姿うしろすがたを、蔭にてゆびさし笑ふ者も少からざりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
喜村は、村田が読み終るのを待って、こんどは神奈川版と書かれた面をゆびさした、見ると茅ヶ崎にも。
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
新吉にきいて初めて知った樹や草の名前を口にしたり、ゆびさして示す時は、すくなからず得意だった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
善作が空身からみで立っている、手真似てまねで下りろという、崖が急で下りられない、ゆびさす方に従ってようやく下り場所をさがし、偃松の中に転げこむと、荷梯子にばしごがそっくり寝ていた
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「その驚きはことわりなれど、これにはちとの仔細あり。さて其処にゐる犬殿は」ト、鷲郎わしろうゆびさし問へば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
連れて行った子がゆびさすのを見ますと、蜀山人しょくさんじんの小さな戯画の額で、福禄寿ふくろくじゅの長い頭の頂へ梯子はしごをかけて、「富貴天にありとしいへば大空へ梯子をかけて取らむとぞ思ふ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
平均は実在的じつざいてき現象を測るもので、ノルムは実際経験の後、れいうとなく、十もくが見、十ゆびさして、一種の理想的標準を設け、物を測定するに用うるものであるとおもう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
クリストフは思い出した。ロールヘンの家の牛飼いの少女だった。彼は鞄をゆびさしながら言った。
耳許で叫ぶと、吉井はふっと眼をけたが、とたんに右手をあげて壁の一部をゆびさしながら
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あすこが水戸だ、お前は明日はあすこへ送られるんだ」と、萩野は遠く東の方をゆびさした。
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
するとモッフは、舷側げんそくもたれているガルールの連中をゆびさしながら、役人の方へ目配めくばせをして
或る時千手丸は近江の国を眺めやって、うす紫の霞の底に輝いて居る鳰海におのうみゆびさしながら
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
汽車が駅に著くと、若者は山上をゆびさして呉れた。そして慇懃に会釈えしゃくし、僕の手を強く握って降りて行った。そこから僕ひとりになった。そしてしばらく窓をあけて月の光を見た。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「さうですな、絵はなか/\よく出来てゐるが、好き嫌ひから言ふと余り好きません。それよか——」と文学者は盲滅法に隅にある一枚の絵をゆびさした。「あの方がずつと気に入りました。」
それからしゃがれた声で早口にののしりはじめ、同室の婦人をゆびさしては激烈に挑戦した。何を云っているかは聞取れない。巡査と駅員に守られて一旦乗船したが出船間際に連れ下ろされて行った。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)