手燭てしよく)” の例文
手を取つて引上げぬばかり、後ではさすがにはしたないと氣が付いたか、女房のお靜が持つて來た手燭てしよくの灯の中に苦笑して居ります。
細君は怒つて先に部屋へはひつて仕舞しまふ。隣の部屋からさきの夫人のマドレエヌが手燭てしよくを執つてあらはれ一人残つたモリエエルを慰める。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かたそろへて、ひなる……そで左右さいうからかさねたなかに、どちらのだらう、手燭てしよくか、だいか、裸火はだかび蝋燭らふそくさゝげてた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一月十九日の朝、五時を打つか打たぬに、ベシーは、手燭てしよくを私の部屋に持つて來た。私は、もう起きて、殆んど着物を着てしまつたところだつた。
食事のあと、友達は手燭てしよくをともして現れました。「物置にはあかりがないのだ」渡り廊下を通るとき、海風が、酔ひにほてつた私の顔を叩いてゐました。
聞し周藏しうざう七左衞門の兩人も馳來り勝手より手燭てしよくを取寄る此時村の小使あるき三五郎は臺所だいどころて居たりしが物音ものおとに驚き金盥かなだらひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やつと灌木くわんぼくの高さしか無いひひらぎよ、僞善ぎぜんの尻を刺すのみ愛着あいぢやくきざたがね、鞭の手燭てしよく取手とつて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ゆふ窓におく 手燭てしよくほどの月あかり
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
そして手燭てしよく木太刀きだちとをげて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
平次は何んの手も加へないのに、窓の戸は内から、靜かに開いて、手燭てしよくを持つた老人の顏が、重々しく外を眺めてゐるではありませんか。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
中に厚紙の台に木のを附けて蝋燭を立てた手燭てしよくを売る老爺おやぢが一人まじつて居る。見物人は皆其れを争つて買ふのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ほと/\と板戸をたゝき、「この執念深き奥方、何とて今宵こよひに泣きたまはざる」と打笑うちわらひけるほどこそあれ、生温なまぬるき風一陣吹出で、腰元のたづさへたる手燭てしよくを消したり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
聞き主人の五兵衞は出來いできたりナニせがれがみえぬと夫れは何所どこへ行たかと家内中をさがども一向にかげも見えずなほくまなくさがもとむるうち裏口うらぐち庇間合ひあはひに五郎藏が倒れて居たりと大聲おほごゑあげて呼はるゆゑ夫れと云て手燭てしよく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「暗くなる時下女のお松が締めて、夕飯の後で私か福次郎が見廻り、それから寢る時主人が手燭てしよくを持つて一々調べることになつて居ります」
自分は手燭てしよくの火で前の女の帽のふちうしろを焼きはしないかと案じる外に何の思ふ所も無かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひとたちを、こゝにあるもののやうに、あらぬ跫音あしおとかんがへて、しはぶきみゝには、人氣勢ひとけはひのない二階にかいから、手燭てしよくして、する/\とだんりた二人ふたり姿すがたを、まで可恐おそろしいとはおもはなかつた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
眞つ黒な人間は、暫く外の樣子を見て居る樣子でしたが、誰も見とがめる者が無いと判ると、引つ返して家の中から手燭てしよくを持つて來ました。
「もう、子刻こゝのつ(十二時)近かつたと存じます。奧樣がお呼びになりましたので、手燭てしよくをつけて、廊下にお迎へ申し上げ、——」
手燭てしよくを持つて、お秀は案内しました。六疊と八疊の二た間續き、その手前に長四疊があつて、奧にはまだ、一と間くらゐありさうな作りです。
夜半近いのに、まだ起きて居たらしく、お雛は自分で格子の内に、手燭てしよくを持つた顏を見せました。寢亂れては居るが、なか/\豊滿な良い年増です。
銭形平次捕物控:282 密室 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
用箪笥ようだんすへ入れたところを、後ろから忍び寄つた曲者に脇腹をされ、あつと振り返るところを、手燭てしよくを叩き落されて、用箪笥の財布さいふを盜まれたんださうで
近所の家からは、手燭てしよくや提灯を持つて飛出す者もある騷ぎです。その灯の中へ救ひ上げた子供をつれて來ると
「まだ、面白いことがある、内儀さんが殺された時と同じやうに、手燭てしよくをつけて風呂場に置き、お前は着物を着たまゝで構はないから流しに立つて居てくれ」
「何んのうらみか知らぬが——夜盜のたぐひではあるまい。何んにも盜られた物はなく、奧の後ろには、手燭てしよくを持つて、糸と申す腰元が付いて居たといふから——」
やゝ暫らく經つてから、物音を聞付けたらしい主人のお紋は、女中に手燭てしよくともさせて驅け付けました。
到頭手燭てしよくと提灯を點けさせて、釜吉と八五郎に前後から照させ乍ら、庭の方まで出かけて行きました。
私が小僧の寅松に手燭てしよくを持たせて、二人で行つて見ますと、——あの通りの姿で死んでをりました
夜になりきつてひどく不便ではありますが、八五郎と久兵衞の持つた手燭てしよくが、案外隅々までも照して、晝では氣のつかないところまで、注意が屆くといふ便利もあります。
これほどの重大事を、何んのわだかまりもなく言つてのけて、瀧三郎は手燭てしよくを取つて先に立ちました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「——死骸は檢屍が濟んで、昨日の中に母屋おもやへ移したが、小牧の旦那が此の中でやられたんだ。手燭てしよくを斬り落されてゐるところを見ると、後ろから飛かゝつたやつでもない——」
何が何やらわからずに、大きい聲を出しますと、娘のお幾が、手燭てしよくを持つて飛んで來てくれました。その時はもう曲者は影も形もなく、何んで突いたか、得物も見付かりません。
お君の妹のお吉さ、——あの娘は優しい顏をしてゐるが大した氣性者だ、——姉の悲鳴を聽いて手燭てしよくを持つて飛び出すと、姉は井戸端で殺されて、曲者は木戸の外へ逃げるところだ。
と平次が聲をかけると、默つて廊下に用意してある手燭てしよくに灯を入れて、風呂場に持つて來たものがあります。緊張して少し青い顏をしてをりますが、案外落着いた内儀の弟の駒吉です。
たつた一つの手燭てしよくで、平次は實によく調べて行きます。生濕なまじめりの庭にはあつらへたやうに足跡があつて、それがかなり大きいことや、突當りの木戸は外から簡單に輪鍵わかぎの外せることを見極め
續いて二人の曲者は、提灯ちやうちんやら手燭てしよくを持つて、それに續くのがよくわかります。
「ね、親分、この通り、——孫三郎が天井裏で何を搜したか、念のため、手燭てしよくを借りて這ひ上がつて見ると、奧の奧でもあることか、押入のすぐ上、天井裏のトバ口にこれがあつたんです」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ろくに返事もせずに出かけましたが、間もなく井戸端のあたりで、姉さんの聲で私を呼ぶやうな、變な押し潰されたやうな聲がするので、お仕事で使つてゐた手燭てしよくを持つて飛び出して見ると——
プーンと言つた鋸引のこぎりびきでもするやうな、あぶが障子の間へ入つたやうな、——私も聽きましたとも。すると主人は飛起きて、絆纒はんてんを引つ掛けて、手燭てしよくと鍵を持つて、廊下傳ひに土藏の方へ行きました。
内儀かみ手燭てしよく、八五郎は提灯を持つて、川の水面に下りました。
手燭てしよくがありましたから、馴れると仕事には不自由しません」
お勝手から手燭てしよくを持つて風呂場へ平次も入ります。
房吉は手燭てしよくを持つてもどつてきました。
手燭てしよくがなくなつて居る」
誰か手燭てしよくを持出すと
手燭てしよくは?」