なま)” の例文
その逼迫ひっぱくしている急場の足もとをつけこみ、故意になまけてはそれを揶揄やゆし、むちいられれば俄然不平を鳴らすというふうであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、畢竟つまりは慾張りとなまけ者の熱心さで、氣狂ひ染みた雷同性らいどうせいに引摺られて、春の夜の薄寒さも、うゑつかれも物の數ではありません。
けれど、あにのほうも、おとうとのほうも、そろってなまものでありました。あにのほうは、一にち仕事しごともせずに、ぶらぶらといえなかあそんでいました。
星と柱を数えたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
そりゃ僕はなまけて学校に出ないのは事実だけれど、これにはまた色々な事情があることで、天願さんには判らないこともあると思うんだ。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
蟻は一匹の王をいただいて毎日朝から晩まで働いている。一匹もなまけるものがなく、そして大きな仕事にぶつかれば大勢一緒になってそれに掛かる。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
現にこの私は上部うわべだけは温順らしく見えながら、けっして講義などに耳をかたむける性質ではありませんでした。始終なまけてのらくらしていました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとからぼんやりとした私はまたなまけ者でもあるし、ほかの方たちのこととこんがらがってしまうこともあって、済まない結果にもなるのですよ
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とッつきがなまけがちの鍛冶屋かじやで、いつもその山の神に怒鳴どなられてる。その次ぎが女髪結いで、男が何人代ったか分らない。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
だから學校がくかうなまけては不可いけない、したがつてをそはつたことわすれては不可いけない、但馬たじま圓山川まるやまがはそゝぐのも、越後ゑちご信濃川しなのがはそゝぐのも、ふねではおなじうみである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
このごろ稽古をなまけている、そんなことでは上達しないぞ、どうして道場へ来ないんだ、とたたみかけるように云った。
饒舌りすぎる (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何も出せないとはどうしたことです。なまけてはいけないね、君のような若い会員が出品しないなんて困りますね。是非何か出すようにして下さい」
というのは、それはクシベシという、貧乏は貧乏なのですが、それというのも、その男は大変ななまもので、そして心のくないアイヌだったのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
外では勉強べんきょうに見せて内ではなまける。表向きではすこぶる謹厳きんげんふうを装いながら、裏面ではすこぶる放蕩ほうとうする。あるいはまた表面節倹せっけんで裏面濫費らんぴする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「だっておめえ、らねえもなァ仕方しかたがねえや。——いってえ、あのなまものが、どこでそんなにもうけやがったたんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「どうも通信員のガツ/\した商売気にも困つたものだ。早速『第一夕揷話さふわ』なぞと書きなぐつて、そのかはり明日は半日なまけようといふのだらう!」
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
なまけがちに日を送って、母親にのみ苦労をかける父親がかれにははがゆくってしかたがなかった。かれは病身でそして思いやりの深い母親に同情した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
怠惰たいだの一団が勉強家を脅迫きょうはくして答案の回送を負担せしめる。もし応じなければ鉄拳てっけんが頭にあまくだりする。大抵たいてい学課に勉強な者は腕力が弱くなまけ者は強い。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
彼の持っている竹の先きには皮がついていた。それは工場でなまけているものを機械の枠越わくごしに、向う側でもなぐりつけることが出来るように、造られていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私は、毎日、あらゆる努めを果たさうと努力してゐた。さうして私は、朝から晝まで、晝から晩まで、横着で、なまけ者で、すね者で、卑屈者だと云はれ通した。
彼方かなたの造船場からは五時半ののど太い汽笛が鳴り響いて来た。自分勝手に工場をなまけ休んで此の一日を無為に遊惰に過ごした者はその汽笛の声を喜ぶ資格はなかつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
小利口にするばかりじゃアねえか! なまけ者やお洒落しゃれにするばかりじゃねえか! 悪く狡猾こうかつにするばかりじゃアねえか! お前達がいい証拠だ! 女狂いや遊び三昧ざんまい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
俺たちの無能力が彼を怒らせさえしなければ、彼は実に人の善い無邪気な子供のような男だ。八戒はいつもすごしたりなまけたり化けそこなったりして、怒られどおしである。
君も知っている通り、おれはよく学校をなまける。だから、近頃ずっと休んでいるのを、たれも別にあやしまない。ところが、妹の奴、兄さんは何故学校へ出ないのだと聞くのだ。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
看病に追われてなまけていた上、一代が死んだ当座ぽかんとして半月も編輯所へ顔を見せなかったのだ。寺田はまた旧師に泣きついて、美術雑誌の編輯の口を世話してもらった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
少年のをり、土井は誰よりもその兄に愛されてゐた。かたくな我儘わがまゝで、そしてときとしてはひどいなまけものであつた異腹の末弟の彼を、兄は何んな場合にも自分の子供のやうに愛した。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
愕然がくぜんとしてわれに返ると、余りなまけた結果、私は六科目の注意点を受けてゐたので、にはか狼狽ろうばいし切つた勉強を始め、例の便所の入口の薄明の下に書物をひらいて立つたが、さうしたことも
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あまりに精神上のなまけ者だった。何か直接のはっきりした事に取りかかっていないときには、まったく何にもしていなかった。夢想さえしていなかった。夜寝床に入ってさえそうだった。
僕はもちろん、勤めはなまけないから、ぜひ保護をしていただきたいと頼んだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼がはじめてこの土地に家を建てた時に、民さんという男をつかっていたが、どうにもなまけ者で朝出の時間がちがったり、不意に休んだりするので我慢がまんができなくなり、納得ずくで別れた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
働く時にもなまける時にも、僕らは絶えずその苛虐かぎゃくむちに打たれているのだ。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「今日は僕なんにも仕事なかったのんで事務所早退はやびきして来てん、お前らも学校なまけててんなあ」いうて、「お茶でも入れて何ぞうまいお菓子ンでも出さんかいな、お客さんもあるし、……」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ただ宿題をなまけるんだ。おい、にんじん、真面目まじめにやろうという気になれ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
お互いなまけているから、こんどのようなそんな阿呆あほらしい問題が起る。互いに励まし合って勉強して居れば、誤解も嫉妬しっとも起るものじゃない。和というのは、決して消極的なものではないのです。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
小林は沖人夫おきにんぷであったがまれに見るなまけ者だった。で、彼を下宿させていた——事実は夫婦だったのだが——前科二、三犯もある年増としまの後家さんも手にあまして、それを私の母に押しつけたのだった。
砥石といし庖丁ほうちょうに刃をつける時に使え。使用後の手入れをちょっとなまけると、すぐに庖丁はさびのきものをきてしまう。たまねぎも、きものを脱がして食べるのだから、庖丁も、きものを着たまま使うな。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
なまけゐてくるしき時は門に立ちあふぎわびしむ富士の高嶺を
「私なぞはいくら暇でも、なまけてばかり居りますわ。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なまけ者とには
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
父親ちちおやは、なまもので、その教育きょういくができないために、行商ぎょうしょうにきたひとにくれたのが、いま一人前にんまえおとことなって、都会とかい相当そうとうみせしている。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
卜斎ぼくさいは、つれてきた半助などには目もくれず、頭からこのなまけ者の抜け作などとどなりつけて、さんざん油をしぼったあげく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煩悶はんもんしているのを見ては親の入道も不安になって、極楽の願いも忘れたように、仏勤めはなまけて、源氏の君の通って来ることを大事だと考えている。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あひだに立つて僕一人ひとりが、何と云つたつて、何をたつて、仕様がないさ。僕は元来なまけものだ。いや、君と一所に往来してゐる時分からなまけものだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「馬鹿野郎、——水仕事一つしないやうな、なまけ者の手なんか見て感服したつて、何んの足しになるんだ」
ははは、勝手に道楽で忙しいんでしてな、ついひまでもございまするしね、なまけ仕事に板前いたまえ庖丁ほうちょうの腕前を
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、さうぢやない、ジエィン。この世は達成の世界ではないのです。そんな風に考へを𢌞めぐらすのはよくない。また休息の世界でもない。なまけ者になつてはいけませんよ。」
私は学校の方はなまけて落第しそうになりながらも、文学の本ばかり読みふけっていた。
その様子を見る度に、以前の物語の聴手ききて達は、この莫迦面ばかづらなまけ者に、貴い自分達の冬籠りの食物を頒けてやったことを腹立たしく思出した。シャクにふくむ所のある長老達は北叟笑ほくそえんだ。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「——皆、あまり働かないで、なまけたり、ずる寝をしたがる傾きがあるが、戦争に勝てば、いくらでも休めるじゃないか、奉公ほうこうするのも、今をのぞいて何時奉公するんだ、と隊長は言われました」
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
あまり好かないのは、なまけ者だからで、できないからではない……。
仕事を少しでもなまけたと見るときには大焼きを入れる。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)