徒然つれづれ)” の例文
主人が収容所にいました時、仲の好い名門の伜数名が集って、研究会のようなものをつくり、徒然つれづれを慰め合っていた事がありました。
恐怖の幻兵団員 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
かつては、長陣の徒然つれづれに、この松の根がたへむしろをしき、月を賞しながら、官兵衛、半兵衛、秀吉と鼎坐ていざして、古今を談じたこともある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その実雀が何羽いるかはさのみ問題ではないので、数を算えて見るというところに、徒然つれづれな春雨の夕方の心持を感じ得ればいいのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
わけても徒然つれづれごとに亡夫の昔語を語るを聞きてこの上のうも満足に思いぬ、「この人までもかくまで亡夫になつきてあるか」と
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
安否をかざりし幾年いくとせの思にくらぶれば、はやふくろの物をさぐるに等しかるをと、その一筋に慰められつつも彼は日毎の徒然つれづれを憂きに堪へざるあまり
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから大病中徒然つれづれなぐさめるため繪(繪といふ名はちとぶんに過ぎるから、繪のやうなものと云つた方が適切ですが)その繪を描いて遊んでゐると
『伝説の時代』序 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつとなくそれにもれ、徒然つれづれさは覚えながらも、今ほど身にしむ悲しいものとは山荘時代の自分は世の中を知らなかった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「何か変ったこともないか。」と滝に臨んだ中二階の小座敷、欄干にもたれながら判事は徒然つれづれに茶店の婆さんに話しかける。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
客窓の徒然つれづれなぐさむるよすがにもと眼にあたりしままジグビー、グランドを、文魁堂ぶんかいどうとやら云えるみせにてうて帰りぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雪を払ひてにじり入り、まづ慇懃いんぎんに前足をつかへ、「昨日よりの大雪に、外面そともいずる事もならず、洞にのみ籠り給ひて、さぞかし徒然つれづれにおはしつらん」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
所謂、檀那様、お家はん、であって、番頭が一切をやっていて、薄暗い所に、一日、徒然つれづれなのが、町人である。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
新内しんない若辰わかたつが大の贔負ひいきで、若辰の出る席へは千里を遠しとせず通い、寄宿舎の淋しい徒然つれづれにはさびのある声で若辰のふしころがして喝采かっさいを買ったもんだそうだ。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
母は大磯の長者父は一年ひととせ東に流されて伏見大納言ふしみだいなごん実基さねもと卿、男女の習い旅宿の徒然つれづれ一夜の忘れ形見なりと見えるが、『類聚名物考るいじゅめいぶつこう』四十に『異本曾我物語』に
阿弥陀あみだいただけるもの、或は椅子に掛かり、或はとこすわり、或は立つて徘徊はいくわいす、印刷出来しゆつたいを待つ徒然つれづれに、機械の音と相競うての高談放笑なかなかににぎはし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ことに徒然つれづれなる旅宿の伴侶はんりょとして、遠い国元から取り寄せる品としては、これほど手軽なものはまず他にはなかったので、いわゆる座頭の京登りのごときも
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
遥かチャアンウッドの森を伝つて来る笛の音こそ、城の主、のちのサフォオク公ヘンリイ・グレイが、奥方はじめ一統を引き連れての、徒然つれづれの狩遊びと見えた。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
そろそろ燈火あかりのつく遠い農家をながめながら、馬籠を出しなに腰にさして来た笛なぞを取り出した時は、しばらく彼もさみしく楽しい徒然つれづれに身をまかせていた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
士官は多分徒然つれづれの余りと、襲い来る睡魔を払うために唄い出したので、声に自信があるのであろうが、うしろでそれを聴いている花やかな人々のあることを感じ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彰義隊士も一方には防禦の準備をしながら、そのあいだには徒然つれづれに苦しんで市中を徘徊するのもある。芝居や寄席などに行くのもある。吉原などに入り込むのもある。
夢のお七 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いやいや、わたしが徒然つれづれを慰めんがために、わざわざ芝居をして見せに来たと思えばなんでもない。
と車中の徒然つれづれに、夫人は旅行鞄トランクから出したインゲ百貨店製の上等なチョコレートを自分の口に含む。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この陣中の徒然つれづれに、如水が茶の湯をやりはじめた。ところが如水といふ人は気骨にまかせて茶の湯を嘲笑してゐたが、元来が洒落な男で、文事にもたけ、和歌なども巧みな人だ。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
神功皇后が船待ちの徒然つれづれに、裳の糸をぬかれて、初めて鮎をお釣りになつたと云はれてゐるが、その後の海幸山幸うみさちやまさちの話にしても、今でも石器時代の骨の釣針が貝塚から出ると同じで
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
見様みように依っては、大変因縁咄めいておりましてな、貴下方あなたがたの様に新しい学問を修められた方には、少々ムキが悪いかも知れませんが、でもまあ、車中の徒然つれづれに——とでもお思いになって
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
魚籠びくを担いで川までお供して行く途中の長い長い田圃道の徒然つれづれなままに翁と雑談をしながら何気なく質問をすると、翁は上機嫌なままに大事な口伝や秘伝を不用意に洩らすことがあった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
出札の河合は徒然つれづれに東向きの淡暗うすぐらい電信取扱口からのぞいては、例の子守女を相手に聞きぐるしい、恥かしいことを語りおうていたが、果てはさすがに口へ出しては言いかねるものと見えて
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
……徒然つれづれの折には、村年寄僧侶などさえお手近く召し寄せられ、囲棋のお遊びなどあり、打ち興ぜさせたもう有様、いん紂王ちゅうおうにも勝れる暴君よなど、噂せられたまいし面影更に見え給わず。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
或時あるとき徒然つれづれなるにまかせて、書物しょもつ明細めいさい目録もくろく編成へんせいし、書物しょもつにはふだを一々貼付はりつけたが、こんな機械的きかいてき単調たんちょう仕事しごとが、かえって何故なにゆえ奇妙きみょうかれ思想しそうろうして、興味きょうみをさええしめていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
葉子は脳心にたぐり込まれるような痛みを感ずる両眼から熱い涙を流しながら、徒然つれづれなままに火のような一心を倉地の身の上に集めた。葉子の顔にはいつでもハンケチがあてがわれていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
また彼はいう、——世間の男女なんにょ老少、多く交会こうえ婬色いんじき等の事を談じ、これをもって慰安とすることがある。一旦は意をも遊戯し徒然つれづれをも慰めるようであるが、僧には最も禁断すべきことである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
これも御用筋を離れての徒然つれづれと見ればそこに涼意も沸こうというもの。
思うに、徒然つれづれというものも、幸福感の一種なのかも知れない。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
旅は、徒然つれづれの姿に似て居ながら、人間の決戦場かも知れない。
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
波路遙けき徒然つれづれ慰草なぐさめぐさ船人ふなびと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
徒然つれづれと存じお茶をれました」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
徒然つれづれなぐさに愛の一曲ひとふし
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
徒然つれづれに読みかさねた和漢の書も、机のチリもすずりも、雑然たるもので——そのくせ新田の者には、掃除の手もふれさせなかった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やまいの後の保養に来ておいでなさいます、それはそれは美しい、余所よそ婦人おんなが、気軽な腰元の勧めるまま、徒然つれづれの慰みに、あの宰八を内証で呼んで
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも回復期に向いた頃、病牀びょうしょう徒然つれづれに看護婦と世間話をしたついでに、彼等の口からじかに聞いたたよりである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枕の上の徒然つれづれは、この時人を圧してほとんど重きを覚えしめんとす。書見せると見えし貫一はからうじて夢を結びゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たいなくとも玉味噌たまみその豆腐汁、心同志どし安らかに団坐まどいして食ううまさ、あるい山茶やまちゃ一時いっとき出花でばなに、長き夜の徒然つれづれを慰めて囲いぐりの、皮むいてやる一顆いっかのなさけ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「イヤこれはこれは、今日は全家うちじゅうが出払って余り徒然つれづれなので、番茶をれてひとりでうかれていた処サ。」と。
何でも五月雨さみだれさびしい夜でしたがネ、余り徒然つれづれまゝ、誰やらの詩集を見てる時不図ふと、アヽわたしヤ恋してるんぢや無いか知らんと、始めて自分でさとりましたの、——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
温泉場の徒然つれづれに、誰が発起するともなく新年宴会を催すことに成った。浴客は思い思いの趣向を凝らした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
うるさいと思っていた同朋同行や、親しかった間の者などが恋しくなり、余り徒然つれづれにたえぬまま
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十内、敵の器用なたちを知っているから、もしかとも思うし自分も徒然つれづれのままに寄席へ入った。
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
越後・佐渡から京西国にかけて、珍しく広い舞台をもつこの人買い船のローマンスは、要するに十三の湊の風待ちの徒然つれづれに、遊女などの歌の曲から聞き覚えたものに相違ない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼女は夫の旅行中徒然つれづれに暮す日が多いので、何卒奥さんに遊びに来て下さいと、アマを介して云って寄越したり、みちった時に誘ったりして、幸子に交際を求めるのだけれども
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
処々にいんんであったり、熟字の使い方や何かが日本人離れをしているところなぞを見ると、やっぱりその名付親の勃海使が芬夫人のものがたりに感激して、船中の徒然つれづれに文案を作ってやったのを
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
波路遙けき徒然つれづれ慰草なぐさめぐさ船人ふなびと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)