おく)” の例文
かりに帝堯ていぎょうをして今日にあらしめなば、いかに素朴節倹なりといえども、段階に木石を用い、おくもまた瓦をもってくことならん。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おくの周囲を半ぶんほど巡って行くと、二つの建物をつないでいる高廊下が見え、そこの中坪らしい辺りで、ふと妻戸を開ける音がした。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鬼だいき衣冠いかんにして騎馬、小鬼しょうき数十いずれも剣戟けんげきたずさへて従ふ。おくに進んで大鬼いかつて呼ぶ、小鬼それに応じて口より火を噴き、光熖こうえんおくてらすと。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
最も普通の不思議は廻廊の板縁いたべりの上に、偉大なる足跡を印して衆人に見せることである。或いは雪の朝に思いがけぬ社のおくの上などにこれを見ることもあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(中略)世間がつとに認めてゐることを、尻馬しりうまに乗つて、屋上をくじやうおくして見たつて、なん手柄てがらにもならない
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おくを造るに巧妙たくみなりし達膩伽尊者たにかそんじゃの噂はあれど世尊せそん在世の御時にもかく快きことありしをいまだきかねば漢土からにもきかず、いで落成の式あらば我を作らん文を作らん
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
道也先生は予言者のごとくりんとして壇上に立っている。吹きまくる木枯こがらしおくうごかして去る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
都而是林友道の通覽に始て其要危をしるならん。實に是屋下おくかおくを架するのならん。
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
あいちやんはそれが自分じぶんうさぎだとつて、おくをもゆるがさんばかりにガタ/\ふるあがりました、自分じぶんうさぎよりもほとんど千倍せんばいいまおほきくなつてるのだからなにおそれる理由わけはないのですが
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして、かねて準備しておかれた川崎在平間村の一おくに入った。ここに十日間ばかり滞在して、江戸の情勢をうかがっていたが、差閊さしつかえなしと見て、十一月の五日にはとうとうお膝元へ乗りこんできた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
蒸気の笛、ほとんど名状すべからざる、都門一場の光景は一重ひとえ硝子がらすに隔てられてビイヤホールの内は物色沈々、さすがに何となくおだやかならぬ宇宙の気勢けはいの、おくを圧して刻々に迫るを覚ゆる、これが
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風雨の声おくをめぐりて騒がし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この新しい芽ばえの宗教、浄土宗のおくを吹きめぐる木枯しは、三十六峰の風ばかりではない。おそろしい法敵がほかにはある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かのくにの制、天子のおくは、くに黄瓦こうがを以てす、旧瓦は用無し、まさに黄なるにかわるべし、といえる道衍が一語は、時に取っての活人剣、燕王宮中の士気をして、勃然ぼつぜん凛然りんぜん糾々然きゅうきゅうぜん
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鞍馬の御曹子おんぞうしに告げたらば、さだめし、一人の源家の味方がふえたと、力づよくも思われよう。すると、奥まった東のおく
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも王なお屈せず、衝撃いよいよ急なり。たまたままた暴飇ぼうひょう起り、おくひるがえす。燕軍之に乗じ、傑等おおいついゆ。燕兵追いて真定城下に至り、驍将ぎょうしょう鄧戩とうしん陳鵰ちんちゅう等をとりこにし、斬首ざんしゅ六万余級、ことごとく軍資器械を得たり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「気がかりなのは、千蛾殿のいる、北のおくの一室です。——あの辺りで、何かふしぎな物音が聞こえましたので、それで目をさましましたので」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わがも同じようにしている館なので、わざと、式台にはかからずに、網代垣あじろがきをめぐって、東のおくにわへはいると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの雑人たちと一つに、舎人のおくの板じきに、素むしろを敷き、蚊に喰われ、奴僕生活の貧しい中にあっても、小次郎の夢には、未来が自由に描かれた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あちらの女どものおくへ渡らせて、双六すごろく扇投おうぎなげでもなされては如何。盛姫もりひめ催馬楽さいばらを見しょうとて、町より白拍子しらびょうしを呼び集め、にぎやかに遊んでおるらしいが」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
堂のうしろでふいに、すさまじい人声がし、あきらかに敵と察しられる怒濤どとうおくを揺すっていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離室はなれちん、すべてが旧家のくすみと大まかな深さを持っていて、それをめぐる松はみな背が高く、おくを越してこの家の富貴をかなでてはいるが、下へかかって来る客へ対して
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
導かれてそこに到れば、長松大柏ちょうしょうたいはく森々しんしんおくをおおい、南国の茂竹もちく椰子樹やしじゅ、紅紫の奇花など、籬落りらくとして、異香を風にひるがえし、おもわず恍惚とたたずみ見とれていた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾日かの解放をゆるされたように、いそいそして、母屋から遠くのおくで、独りぼッち、眠った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくの西に、木につつまれた一棟ひとむねがある。昼寝でもするつもりか、大股に、つとそこへ這入ると
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の老軍卒が彼をみちびいて、監房隧道トンネルから、陽の目のある階段を先に登って行った。いよいよ土牢行きかな? 思っていると、さにあらず、清洒せいしゃな一おくの明るい部屋だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくのまわりは、降るような物音だ。郎党たちが、うまやから馬をひき出し、土倉から武器、松明たいまつなど取り出して、しかりあい、わめきあいしながら、気負きおいをしているらしい。
庭はすぐ裏の鶴ヶ岡を容れ、落つる水は、放生池の流れへそそぎ、風ともなく、自然の音楽がおくめぐって吹き、その微妙なかなでに独りの客も、しばしは飽かぬ心地の中だった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何しろ古い様式の建物で、中のおく、北の屋、東の屋、と棟もべつに、中庭から橋廊下はしろうかをへだてているので、これ以上なことがあっても、滅多に客間やつめ侍の部屋までは分るはずがない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、あらためて、おくの後ろの岩湧山いわわきやまや、前面の金剛、葛城の峰々を見まわした。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの塀の上に、ぽっと明りがしてるだろ。あそこが北のおくで、ちょうど、お通さんが寝ている部屋があの辺なんだぜ。……あの灯りは、お通さんが起きて待っている灯りかも知れないね」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広い邸内を庭づたいに走り、「西のおく」の陽あたりのよい一間ひとまを覗いて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『さりとは迷惑な。この貧しきおくへ、白拍子しらびょうしでも、呼べとやいわるる』
秋とはいえおくの内は、まだ蒸し暑い気もする八月の夜なのである。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わしが調べる。西のおくで見よう。すぐいて来い」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋上おくじょうおくす。という語がある。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)