小言こごと)” の例文
よくいいつかったことをわすれたり、また、ばんになると、じきに居眠いねむりをしましたので、よく叔父おじさんから、小言こごとをいわれていました。
人の身の上 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この炬燵こたつやぐらぐらいの高さの風呂にはいってこの質素な寝台の上に寝て四十年間やかましい小言こごとを吐き続けに吐いた顔はこれだなと思う。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
クリストフの小言こごとを受けて不機嫌になってる歌手をなだめるため、彼は急いでそのそばに行って、重苦しい冗談を盛んに言いかけた。
「夏蜜柑の択び方も知らん」と言ってまじめになって小言こごとをいいながら、それでも伯父はムシャムシャ喰べた。そして三造にも勧めた。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
まる年間ねんかん小言こごとはず、うらみもはず、たゞ御返事ごへんじつてります』でめられたのだからたまらない。をとこはとう/\落城らくじやうした。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「私を接吻せっぷんして下さいな。どこもお悪くなく、よくお眠りになり、御安心していらっしゃるのなら、私何とも小言こごとは申しません。」
「それはもう、鹽磨きで、水の使ひやうが荒過ぎるつて、大家おほやさんから小言こごとをくひましたよ、何しろ若くて獨り者で、良い男だ」
「まア、今日はお小言こごとデーなのね、おじいさん。ちとほかのことでも言いなすったらどう? 貴郎あなたの五十回目のお誕生日じゃありませんか」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
田崎が事の次第を聞付けて父に密告したので、お悦は可哀かあいそうに、馬鹿をするにも程があるとて、厳しいお小言こごと頂戴ちょうだいした始末。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
院は微笑を顔にお浮かべになって、お小言こごとはお言いになったものの、どちらもかわいくてならぬというような表情をしておいでになった。
源氏物語:37 横笛 (新字新仮名) / 紫式部(著)
牛乳屋に小言こごとをいってろうなんぞとその時分だけ食物の影響を知っていますが少し大きくなると大人同様の食物を与えて平気でいます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
またこの通人からお小言こごとを食ったのでしょうが、ドコまでも素直なお雪は、通人をおこらせるだけの返答を与えませんでした。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
相手あいて黙々もくもくとした少年しょうねんだが、由斎ゆうさいは、たとえにあるはしげおろしに、なに小言こごとをいわないではいられない性分しょうぶんなのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「いじのわるいにいさんたちや、小言こごとばかりいうおとうさんなんか、そばにいないほうがいい。ああ、これでのうのうした。」
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この際、五十銭か六十銭ならば知らず、二円五十銭の書物を買って下さいなどといい出しても、お小言こごとを頂戴して空しく引退ひきさがるに決っている。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ママははらったらしい目つきでシューラをにらんだ。そして、いまいましそうに顔を赤くして、ぶつぶつ小言こごとをいい出した。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
とおっしゃっただけで、別のお小言こごともなかった。しかし女中がはたからクスクス笑ってばかりいたので、照彦様はおこって
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「井上さん、どうしたの? 用がなければそれっきりとは、随分ひどいわよ。私あなたが来たら、うんと小言こごとを云ってやろうと思ってたのよ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
先生にしかられても、親父おやじから小言こごとを食っても、落第しかかっても、一向好きになれなかったのみならず、興味はいよいよ退散する一方であった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
丑年うしどしの母親は、しまいそうにしていた葛籠つづらの傍をまだもぞくさしていた。父親が二タ言三言小言こごとを言うと、母親も口のなかでぶつくさ言い出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
誰から別段たのまれたということもなく、まあ自分の発意ほついから仲のい友達同士が道楽半分にやり出した仕事ですから、別に小言こごとの出る心配もなし
こういうこともない例ではありませんが、あくまでも練れた客で、「後追あとお小言こごと」などは何も言わずに吉の方を向いて
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを惜しいと思って小言こごとをいったところが、その人はかえって地蔵のたたりを受けたということです。(横須賀郷里雑記。静岡県小笠おがさ郡中浜村国安)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どれもこれもていたりがたくけいたりがたき腕白顔わんぱくがおだ。さだめし、屋敷やしきへかえったのちには、母者人ははじゃびとからお小言こごとであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母は折角せっかく言うていったんは帰したものの、初めから危ぶんでいたのだから、再び出てきたのを見ては、もうあきらめて深く小言こごとも言わない。兄はただ
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
パーシウスは時を移さず、三人の白髪婆さん達がまだお互に小言こごとを言い合っている暇に、藪の蔭から飛び出して行って、獲物をせしめてしまいました。
一切沈黙したる風にて、家内の者共にも何とも話し懸けず、ただ食後にはトントン廊下を運動し、時々は余りの足音にて家の者共は内々小言こごとを申し候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
楽手はちょいと驚いたらしかった。が、相手の上官の小言こごとを言わないことを発見すると、たちまち女らしい微笑を浮かべ、ず彼の言葉に答え出した。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等かれらのしをらしいものはそれでも午前ごぜん幾時間いくじかん懸命けんめいはたらいてちゝなるものゝ小言こごとかぬまでにうまやそばくさんでは、午後ごご幾時間いくじかん勝手かつてつひやさうとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また或場合には、彼女はどうしても小言こごとを云ふ事が出来ずに、その小言を云ふ筈の生徒を悲しさうに見送りながら、何んでもないおはなしをして帰しました。
背負ひ切れぬ重荷 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
しかしわたくしの下駄げたも子供にそろえさせることもあり郵便をいれにやることもあります。こちらが小言こごとを云う時もありあちらから意見されることもあります。
小言こごとはれたので態々わざ/″\買ひにたんです、うかあたしさゝうな世辞せじがあるなら二ツ三ツ見せて下さいな。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
この家来を叱ることについて如水自身の言ひわけがあるが、その言ひわけは固よりあてになつたものではない。畢竟ひっきょうは苦しまぎれの小言こごとと見るが穏当であらう。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何故なぜ今日けふあそばないのだらう、おまへなに小言こごとはれたのか、大卷おほまきさんと喧嘩けんくわでもしたのではいか、と子供こどもらしいことはれてこたへはなんかほあからむばかり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もういちどもどっていって、主人の代理公使夫人に小言こごとをいって来ようかしらん。いや、それもばからしいようだ。それにまだ起きているかどうかわからない。
小言こごとを言わずに、堪うることを学べ」(Lernen zu leiden ohne Klagen)
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
機関車は矢張ぶう/\小言こごとを言つてゐる……其中に先刻さつきの連中が酒の瓶や紙包みをげて飯屋を出て来て、機関方きくわんがたが機関車へ這上はひあがると……やがて汽車は動き出した。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
たい中根なかね平素へいそけつして成績佳良せいせきかりやうはうではなかつた。おれ度度たびたびきびしい小言こごとつた。が、人間にんげん眞面目しんめんもく危急ききふさいはじめてわかる。おれ中根なかね眞價しんか見誤みあやまつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いいと言われれば、いつまでだってそこにいたはずだが……そうはいかなかった。母の小言こごともうるさいし、時には当のジナイーダから、追っ立てを食う始末だった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「食べないかい。食べなければ云々うんぬん」と小言こごとをいって貞世を責めるはずだったが、初句を出しただけで、自分の声のあまりに激しい震えように言葉を切ってしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
李一はその晩、父親からひどく叱られて、麻糸を何故なぜ買わなかったかと小言こごとを食ったのでした。
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かくも僕はそういう少年でした。父の剛蔵はこのことを大変苦にして、僕のことを坊頭臭ぼうずくさい子だと数々しばしば小言こごとを言い、僧侶ぼうずなら寺へやっしまうなど怒鳴ったこともあります。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
旦那さんは君に小言こごとなんか言やしない。いきなりそいつを地べたの上へはじき飛ばしちまうから。すると奥さんは、ちょっと泥がついただけで、もう一度川へ行ってこいというよ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
栄輔君が東京に脱走したり、柄にもない志を立てたりして金を使つても、さう大して小言こごとも言はないやうであつたが、しかし家の財産は少しも栄輔君の自由にはまだならなかつた。
田舎からの手紙 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
だからその点遠慮して、どんな事をしようが、何一ツ小言こごとをいった事はありません。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小言こごとがましき時にあたって慈愛の情の平常つねまさり病子を看護するを見たり、爾無限の慈母も余のいためる時に余を愛する余が平常無事の時の比にあらざるなり、余の愛するもの失してのち
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
晩の米が無いから、明日の朝食べる物が無いから——と云つては、その度に五十錢一圓と強請ねだつて來た。Kは小言こごとを並べながらも、金の無い時には古本や古着古靴などまで持たして寄越した。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
清造はかんではき出すような小言こごとをいわれると、店のすみいていました。そういうとき、だまってじっと目をつぶると、いつもあの沼と、沼にかぶあわがかならず目に浮かんできました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
褒めたくてもこらえて小言こごとをいうのは、怒りたいところを我慢するのと、同じくらいに、つらいものです。そんなつらい役は、お父さんでなければ引き受ける人はあるまい。親馬鹿というんだね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
『先生に見られても、少しも小言こごとを言はれるところが無い樣に出來たか?』
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)