やつこ)” の例文
「隱したつて駄目だよ、證據は銀流しのかんざしだ。柳橋で藝妓のやつこを殺したのを手始めに、四人まで手にかけた、お前は鬼のやうな女だ」
さては相見ての後のたゞちの短きに、戀ひ悲みし永の月日を恨みて三ぱつあだなるなさけを觀ぜし人、おもへばいづれか戀のやつこに非ざるべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
此處の歌は七首の聯作で、ほかの歌には、『後悔いむかもおぞの亞米利加』とあつたり、『罪をはや知りてあがなひまつれ亞米利加やつこ
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
もともとやつこといふ名からして、大昔からいやしめられ、罵しられた卑稱で、あやつ、こやつ、やつ、やつこ、いへの子、ツ子だといふことだ。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
耿紀こうき韋晃いこうたちは、前の日から休暇を賜わって、各〻の邸にいた。手飼いの郎党から召使いのやつこまでを加えると四百余人はいる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豆猿といふのは、ポケツトや掌面てのひらのなかにでもまるめ込んでしまはれさうな小さな猿で、支那でも湖南あたりにしか見受けられないやつこさんだ。
わめくと、ふち這𢌞はひまはり/\、時々とき/″\さかしまに、一寸ちよつとゆびさきれては、ぶる/\とふるはしてやつこが、パチヤリとはひつて
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それとも、やつこさん、もう上つて来ないつもりかな。またひとつ、慰めなけれやならない種を蒔いちまいました。何処まで惨めな男だかわかりませんよ。
頼母しき求縁(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
其の人を七〇やつこのごとく見おとし、たまたまふるき友の寒暑かんしよとむらひ来れば、物からんためかと疑ひて、宿にあらぬよしをこたへさせつるたぐひあまた見来りぬ。
八絃やつをの琴を調しらべたるごと、天の下らしびし、伊耶本和氣いざほわけの天皇の御子、市の邊の押齒のみこの、やつこ御末みすゑ
此家こヽにも學校がくかうにも腦病なうびやう療養れうやう歸國きこくといひて、たちいでしまヽ一月ひとつきばかりを何處いづくひそみしか、こひやつこのさても可笑をかしや、香山家かやまけ庭男にはをとこみしとは。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「蔵に行くと、いろんな衣裳が沢山あるぢやないか。あいつを一番持出して、裃を着たい奴は裃、鎧武者にりたい力持は甲を被り、やつこになりたい者は——」
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
圭子のところで、いつもうたつてゐた「やつこさん」だとか、「おけさ踊るなら」も、人々の笑ひの種子たねだつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「三宝のやつこと仕へたてまつれる天皇の命を大前に奏す」という言葉をもって始まるこの奏文は、我が古神道こしんとうを絶対とする心からは、とかく非難されてきたものである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
◎其翌年ママ(慶応二年)の正月十九日の晩長州へ行つて居た龍馬と新宮馬次郎と池内蔵太とマ一人私の知らぬ男とが一人のやつこを連れて都合五人で寺田屋へ帰りました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
寺のやつこが三四人先に立つて、僧綱が五六人、其に、所化たちの多くとり捲いた一群れが、廬へ来た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
仁助 一文やつこの出る幕ぢやあねえ、引込んでゐろ。こつちは手前達を相手にするんぢやねえや。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
下におりてゐた馬丁べつたう、これも二人、いづれも大名行列のやつこに似たやうな揃ひの服装をして、何やら金ぴかの大きな紋章をつけた真黒な円い笠をかぶつてゐた其の姿であつた。
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
のつそり十兵衞と口惜い諢名あだなをつけられて居るやつこでござりまする、然し御上人様、真実ほんとでござりまする、工事しごとは下手ではござりませぬ、知つて居ります私しは馬鹿でござります
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
がくのいろ雨に浮きたり。呼びそめぬ、ラヂオのニユース、フラン落ち、巴里暴動す、ポアンカレーまた世に出でむ。子らよよし、冷麥ひやむぎ食べむ、實山椒はやつこにつけむ、月待ちがてら。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
その香りは又しても私の心底へ「恋のやつこの哀れさ」を想起せしめるに充分であつた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
いたづらにまぼろしのやつことなるこそくちをしけれ、山は靜かにして性を養ひ、水は動いて情を慰むとかや、内に動き、外に亂れて、山水我を顧るのいとまなく、我亦山水を顧るのいとまなく
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
橘諸兄に告げしめて「三宝のやつこと仕へ奉る」と、そして敬々うやうやしく礼拝した。
道鏡 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
若松屋惣七は、町人らしい縞の着物にその杖をついて、江戸川を渡って、築土片町つくどかたまちのほうから矢来下やらいしたへ抜けて行った。陽がかんかん当たって、走りづかいのやつこなどの笑い声のする往来であった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いなと言へどつかみかかりて皺よりてすべなきものは老のやつこ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
伴へる支那のやつこが指立てぬ時を問へるや恋を問へるや
やつこさんの小法師も
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)
「外ぢや御座いません、——あの柳橋で殺された吉原藝妓のやつこ——あののことに付きまして、親分に伺ひたいことが御座います」
迷の羈絆きづな目に見えねば、勇士の刃も切らんにすべなく、あはれや、鬼もひしがんず六波羅一のがうもの何時いつにか戀のやつことなりすましぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しるし」は効験、結果、甲斐等の意味に落着く。「天ざかるひなやつこ天人あめびとく恋すらば生けるしるしあり」(巻十八・四〇八二)という家持の用例もある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
だれだとおもふ、かゝあながわづらひでなけりや、小兒がきなんぞれちやねえ。う、やつこ思切おもひきつて飛込とびこめ。生命いのちがけで突入つツぺえれ! てめえにやあついたつて、ちやんにはぬるいや。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
持山 いや、別に待つてもゐないが、生憎あいにく、留守番を頼まれたんでね。なに、ぶらつと金を借りに来たら、それを云ひ出さないうちに、やつこさん、出かけちまつたんだ。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「これだ/\。自分が見たいと思つてるのは。やつこさんやつぱり懐中ふところぢ込んで御座つたな。」
(播磨はお菊を突き放して、刀をひき寄せる。下の方より庭づたひにやつこ權次走り出づ。)
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
泣きたいやうな、それほど我は腑の無いやつか、恥をも知らぬやつこと見ゆる歟、自己おのれが為たる仕事が恥辱はぢを受けてものめ/\面押拭ふて自己は生きて居るやうな男と我は見らるゝ歟
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
がくのいろ雨に浮きたり。呼びそめぬ、ラヂオのニユース、フラン落ち、巴里暴動す、ポアンカレーまた世に出でむ。子らよよし、冷麦ひやむぎ食べむ、実山椒はやつこにつけむ、月待ちがてら。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おもて鹽物しほものやが野郎やらうと一しよに、しゞみしてはあしおよぶだけかつまわり、野郎やらうが八せんうれば十せんあきなひひはかならずある、一つは天道てんたうさまがやつこ孝行かう/\見徹みとほしてか、なりかくなり藥代くすりだいは三がはたら
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
江戸時代のそれがやつこです。これが世を風靡して、高い位置についてゐる人にも伝染し、旗本奴となり、又京都迄伝染して公卿や宮中の女の人にも奴風が模倣されます。これを歌舞妓風と言つてゐます。
無頼の徒の芸術 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
苦むるこころの鬼のやつここそうき身はなれぬ影にしありけれ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
風立ちぬ車のやつこ城内のちまきに走り帰りこぬかな
やつこ凧よ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
このやつこ
やつこの眼を突いて一と思ひに殺し、その上怨みある萬三郎の羽織の紐を千切つて死體の手に握らせるやうな小細工までしたのでした。
おもはずわらつたが、これはわからなかつた。やつこはけろりとして、つめたいか、日和下駄ひよりげたをかた/\と高足たかあし踏鳴ふみならす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
親にもしゆうにも振りかへて戀のやつことなりしまで慕ひし横笛。世を捨て樣を變へざれば、吾から懸けし戀のきづなく由もなかりし横笛。其の横笛の音づれ來しこそ意外なれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「ところが、やつこさんたち、御覧の通りの始末でとんと私を慈善家にする機会を与へて呉れない。」
さもなくつてさへ、やつこさんを僕が軽蔑してるといふんで、再三抗議を提出してますからね。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
悪いことや曲つたことは決して仕ませぬが取り上せては分別の無くなる困つたやつこで、ハイ/\、悪気は夢さら無い奴でござります、ハイ/\其は御存知で、ハイ有り難うござります
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
表の塩物やが野郎と一処に、しじみを買ひ出しては足の及ぶだけ担ぎ廻り、野郎が八銭うれば十銭の商ひは必らずある、一つは天道さまがやつこの孝行を見徹みとほしてか、となりかくなり薬代は三が働き
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ともやつこさへこのやうに、あれわいさの、これわいさの、取りはづす
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)