夕風ゆふかぜ)” の例文
正面しやうめん待乳山まつちやま見渡みわた隅田川すみだがはには夕風ゆふかぜはらんだかけ船がしきりに動いてく。水のおもて黄昏たそがれるにつれてかもめの羽の色が際立きはだつて白く見える。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
がたりとおとして一ゆりれヽば、するりおちかヽるうしろざしの金簪きんかんを、令孃ひめ纎手せんしゆけとめたま途端とたん夕風ゆふかぜさつと其袂そのたもときあぐれば、ひるがへる八つくちひらひらとれてものありけり
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
して、ばあさんのみせなりに、おうら身体からだむかふへ歩行あるいて、それが、たにへだてたやま絶頂ぜつちやうへ——湧出わきでくも裏表うらおもてに、うごかぬかすみかゝつたなかへ、裙袂すそたもとがはら/\と夕風ゆふかぜなびきながらうすくなる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかしまた田圃たんぼづたひに歩いてうち水田みづたのところ/″\にはすの花の見事に咲き乱れたさまをなが青々あを/\したいねの葉に夕風ゆふかぜのそよぐひゞきをきけば、さすがは宗匠そうしやうだけに
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
玉簾たますだれなかもれでたらんばかりのをんなおもかげかほいろしろきもきぬこのみも、紫陽花あぢさゐいろてりえつ。蹴込けこみ敷毛しきげ燃立もえたつばかり、ひら/\と夕風ゆふかぜ徜徉さまよへるさまよ、何處いづこ、いづこ、夕顏ゆふがほ宿やどやおとなふらん。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
長吉ちやうきち病後びやうご夕風ゆふかぜおそれてます/\あゆみを早めたが、しか山谷堀さんやぼりから今戸橋いまどばしむかうに開ける隅田川すみだがは景色けしきを見ると、どうしてもしばら立止たちどまらずにはゐられなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夕風ゆふかぜや吹くともなしに竹の秋
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)