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ゆふかぜ
然しまた
田圃づたひに歩いて
行く
中水田のところ/″\に
蓮の花の見事に咲き乱れたさまを
眺め
青々した
稲の葉に
夕風のそよぐ
響をきけば、さすがは
宗匠だけに
玉簾の
中もれ
出でたらんばかりの
女の
俤、
顏の
色白きも
衣の
好みも、
紫陽花の
色に
照榮えつ。
蹴込の
敷毛燃立つばかり、ひら/\と
夕風に
徜徉へる
状よ、
何處、いづこ、
夕顏の
宿やおとなふらん。
長吉は
病後の
夕風を
恐れてます/\
歩みを早めたが、
然し
山谷堀から
今戸橋の
向に開ける
隅田川の
景色を見ると、どうしても
暫く
立止らずにはゐられなくなつた。