そり)” の例文
この二つの互いに喰違ってそりの合わないような活動が入り乱れたりコンガラカッたりして開化と云うものが出来上るのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから、自分の短い、そりのついた剣をはずして、パーシウスが前から下げていた剣の代りに、それを彼につけてやりました。
芭蕉は許六の「名将の橋のそり見る扇かな」にさへ、「此句は名将の作にして、句主の手柄は少しも無し」と云ふ評語を下した。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若旦那樣も私とはそりが合はず、殊に御新造樣はやかましい方で、私とお孃さんが、親しく口をきいても目にかどを立てます。
細川侯であるとないとにかかわらず、いったいが大名の行列というものが、道庵と米友のそりに合わないことは中仙道熊谷在の例でもわかりましょう。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
続いたのが、例の高張たかはりを揚げた威勢のい、水菓子屋、向顱巻むこうはちまちの結び目を、山から飛んで来た、と押立おったてたのが、仰向けにそりを打って、呵々からからと笑出す。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チッバ 無理往生むりわうじゃう堪忍かんにん持前もちまへ癇癪かんしゃくとの出逢であひがしらで、挨拶あいさつそりあはぬゆゑ、肉體中からだぢゅう顫動ふるへるわい。引退ひきさがらう。
昔からエジプト人とそりが合わないで、今日でもエジプト人(フェラヒン)との間では婚姻が行われないそうだ。
七重文化の都市 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
彼は生皮革なまがわで巻いたマキリのつかをシッカリと握り直した。谷川の石で荒磨あらとぎを掛けたそりの強い白刃しらはを、自分の背中に押し廻しながら、左手で静かに扉を押した。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今夜の会にあつまつた若い詩人は大抵この人の崇拝者である。四十五六歳のはずだが三十五六にしか見えない若い男だ。黒い髪を長く垂れてそり身に成つて気取つた物言ものいひをする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そりの凄い二尺八、九寸、新九郎は常に手馴れの木剣を小野派下段の型どおりに構え、ジリ……ジリと精根を柄にしぼって、ここ、乾坤一擲けんこんいってき、真剣以上の捨身でつめ寄る。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもきを誇りし圓打まるうち野太刀のだちも、何時しか銀造しろがねづくりの細鞘にそりを打たせ、清らなる布衣ほいの下に練貫ねりぬきの袖さへ見ゆるに、弓矢持つべき手に管絃の調しらべとは、言ふもうたてき事なりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ふだんからそりが合わなかった。若者にはいつも他人の生活を横目で見ているようなしつっこいところがあった。おれはいつかやるかも知れないと末吉はふと思うこともあった。
日日の麺麭 (新字新仮名) / 小山清(著)
野は秋も暮れて木枯こがらしの風が立った。裏の森の銀杏樹いちょう黄葉もみじして夕の空を美しくいろどった。垣根道にはそりかえった落葉ががさがさところがって行く。もず鳴音なきごえがけたたましく聞える。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
持って通った場合もあろうが、多くは寺子屋の壁に掛けておいたようである。上部両端にかんがつきひもが添えてあるのが多い。板の左右には端喰はしばみを附ける。そりを妨ぐためである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ちからあるにつよくおさへて、一兎角とかくまぎらはすことなり、をとこならでは甲斐かひのなきに、其事そのことあればといはず夜中よなかはず、やがて千葉ちばをば呼立よびたてゝ、そりかへるおさへさするに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
武田家の家人に佐分さぶり弥四郎があり、同書はまたこの家の事を述べて、佐分・佐分利は曾里という地名と同じ義にて、諸国にそりと書するものとともに焼畑のことなるべしといっている。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……またこう考えることもまれではなかった——どうして僕は一体こんなに風変りで、みんなとそりが合わないんだろう。先生とは喧嘩腰だし、ほかの子供たちからは仲間外れなんだろう。
そりの合はない数多い妻の弟達の中で、この修一だけは平生から私を好いてゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
げて出た刀にそりを打たせ、グッと睨んだ眼付きには物凄じいものがあった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
崩れた跡の形まで覚えている城壁は、夜空にどっしり横にはっているし、屋根のそり返った古い鐘楼しょうろうも黒々とそびえていて、角の薬屋のげた金看板も元のままなのに、彼の家へ行く横町がないのだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
孝助は仮令たとえ如何いかなるわざわいがあっても、それを恐れて一歩でも退しりぞくようでは大事を仕遂げる事は出来ぬと思い、刀にそりを打ち、目釘めくぎ湿しめし、鯉口こいぐちを切り、用心堅固に身を固め、四方に心を配りて参り
そり高き磴道とうだうる人ひとり東陵とうりようはげに冬によき山
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そり落葉にたまつた美しい露を
わがひとに与ふる哀歌 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
草絡くさがらみ、落葉おちばそり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
軽くそり打つ身を映し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あのお喋舌しやべりで浮氣つぽくて容貌きりやう自慢で、若旦那とはまるつきりそりの合はないお萬と一緒にされるが嫌で、ツイ自棄やけなことがあつたかも知れないが
それでもをつとおとうとだとおもふので、るべくはそりあはせて、すこしでもちかづけるやうに/\と、今日迄こんにちまで仕向しむけてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、お代官だの、お殿様だのというもののお通りと、米友とは、あんまりそりが合わないのです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ニヤニヤとまた笑ったが、胡瓜きゅうりの化けたらしい曲った刀が、剥きづらかったか、あわれ血迷って、足で白刃を、土間へ圧当おしあ蹈延ふみのばして、そりを直して、瞳に照らして、持直す。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足拵あしごしらえは、草鞋わらじ股立ももだち、大刀にそりを打たせて、中の二、三名は、槍を横に抱えている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀にそりを烈しくうたせ、足先で地を噛みジリジリと進んだ。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と河原の中へ其の儘そりかえりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また、そり青き塔のつま。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あのお喋舌しゃべりで浮気っぽくて容貌きりょう自慢で、若旦那とはまるっきりそりの合わないお万と一緒にされるが嫌で、ツイ自棄やけなことがあったかも知れないが
僕に云わせると、世間にありがちなそりあわない本当の親子よりもどのくらい肩身が広いか分りゃしない。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
甲府勤番のそりの強さを見せつけて、駒井のたんを奪うてやるような仕事はないか、駒井が着く早々縮み上って尾を捲いて向うから逃げ出すようなはかりごとがあらば、これ以て甚だ痛快なる儀じゃ
俎板をポンと渡すと、目の下一尺の鮮紅からくれないそりを打って飜然ひらりと乗る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巴屋さんの方はあの通り派手で、金持で、施しが好きで、江戸中に人気のある人だから、土台そりが合いません。
一方から見ると、ひとそりが合わなくなるように、現在の自分を作り上げた彼は気の毒なものであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
由来、道庵と折助とはそりが合わないものの型になっている。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と見物の頬被りは、そりを打っておおいに笑う。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはやくざ者などが好んで持つて歩く新刀物のそりのない長脇差で、柄糸つかいとなどは朱を塗つたやうに血に浸り、紫色に曇つた刀身などまことに物凄い限りです。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
したがって同じ型に出来上ったこの夫婦は、おのれの要するものを、要する事のできないお互に対して、初手しょてから求め合っていて、いまだにしっくりそりが合わずにいるのではあるまいか。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人の徳右衞門と、母親のお源は、伜を案じる不安にさいなまれて、何を訊いてもハキ/\とは返事をしてくれず、娘のお延は、兄嫁のお染とはそりが合はなかつたらしく
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そりを打った中折れの茶のひさしの下から、深きまゆを動かしながら、見上げる頭の上には、微茫かすかなる春の空の、底までもあいを漂わして、吹けばうごくかと怪しまるるほど柔らかき中に屹然きつぜんとして
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「奉公人は大抵奉公人同士庇ひ合ふものですが、お妾と居候には妙にそりが合はないやうですね」
御米には、自分が始めから小六にきらわれていると云う自覚があった。それでも夫の弟だと思うので、なるべくはそりを合せて、少しでも近づけるように近づけるようにと、今日こんにちまで仕向けて来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お前とはそりが合ひさうもないが、パツパと金をくから、近所の評判は決して惡くないよ」
檜木風之進は一刀にそりを打たせると、狹いお勝手一パイに肩肘かたひぢを張りました。が、さう言ふ癖に風之進の顏は、妙にニヤニヤして、皮肉で虚無的で、妥協的でさへあつたのです。