南無三なむさん)” の例文
いやうへに、淺葱あさぎえり引合ひきあはせて、恍惚うつとりつて、すだれけて、キレーすゐのタラ/\とひかきみかほなかれると、南無三なむさん
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
南無三なむさん——とあなたを見れば、火の手を見た城下の旗本たちが、やみをついて、これまた城の大手へ刻々に殺到するけはいである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無三なむさん! みつかったか? と、もうわたくしは、魂も身にそいませんでふるえておりましたが、ありがたいことにはもうひとりの黒装束が
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
如何なる事と心驚きながら父は倉皇そうこう出で行きたるに、南無三なむさん内の客人が御国法を犯し外国船に乗り込まんとして成らず自首したりとの事にて
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
わたしは、そろそろこしを落して、足音に向って身構えた。……男の姿が現われた。……南無三なむさん! それはわたしの父だった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
南無三なむさんわなにてありけるか。おぞくもられし口惜くちおしさよ。さばれ人間ひとの来らぬ間に、のがるるまでは逃れて見ん」ト。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
カピ長 南無三なむさん、やりをるわい。おもしろい下司野郎げすやらうめ! なんぢゃ、まきぢゃ? 乃公おれゃまた薪目まきめくらかとおもうた。……はれやれ、けたわ。
なして其夜の事共ことども一々白状に及びたりさてまた本郷の甲州屋仁左衞門は本町の肥前屋小兵衞が召捕めしとられし事を聞ける故南無三なむさんと思ひしが熟々つく/″\工夫くふうをなすに所詮我此所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
めりめりひやりと鳴る音にそりゃ地震よ雷よ、世直し桑原桑原と、我先にと逃げ様に水桶みずおけたらい僵掛こけかかり、座敷も庭も水だらけになるほどに、南無三なむさん津浪が打って来るは
南無三なむさん! と覚悟を決めたとき、足は、懐中ふところの小判を越えて、はうように咽喉のどからあごへ——。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
南無三なむさん! 鼻はくっつかないのだ!……彼はそれを口許へ持って行って、自分の息でちょっと暖めてから、ふたたび、頬と頬との中間の、つるつるしたところへ当てがった、が
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
南無三なむさん。」とわたくし逡巡しりごみした。おほく白晢はくせき人種じんしゆあひだ人種じんしゆちがつた吾等われら不運ふうんにも彼等かれらとまつたのである。わたくし元來ぐわんらい無風流ぶふうりうきはまるをとこなのでこの不意打ふいうちにはほと/\閉口へいこうせざるをない。
と目をると、片蔭に洋服の長い姿、貧乏町のほこりが懸るといったように、四辺あたりを払って島野がたたずむ。南無三なむさん悪い奴と婆さんは察したから
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南無三なむさん」と、思ったが、あわてて引っ返してはかえって怪しまれる。肚をすえて、そのまま行き過ぎようとした。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南無三なむさんしてやられしと思ひしかども今更追ふても及びもせずと、雉子を咬へて磚𤗼ついじをば、越え行く猫の後姿、打ち見やりつつ茫然ぼうぜんと、噬み合ふくちいたままなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
魚のえらを離しさまに手の小指を少し怪我けがしけるが痛みは苦にせねど何がな口合くちあいがいいたさに南無三なむさん、手を鯛のえらでいわしたア痛い、これはえらいたい、さてもえらい鯛じゃといったが
『しまつたツ。』と一聲いつせいわたくしも、日出雄少年ひでをせうねんも、水兵すいへい稻妻いなづまも、一度いちどにドツとまへほう打倒うちたをれて、運轉臺うんてんだいから眞逆まつさかさまおとされた武村兵曹たけむらへいそうが『南無三なむさん大變たいへん!。』とさけんで飛起とびおきたときは、無殘むざん
「こりゃアいけねえ……南無三なむさん
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
南無三なむさん膝を立直たてなほし、立ちもやらず坐りも果てで、たましひ宙に浮くところに、沈んで聞こゆる婦人の声、「山田やまだ山田」と我が名を呼ぶ、哬呀あなやかうべ掉傾ふりかたむ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
十人以上な喊声かんせいだ。ピューッ、ピューッと指笛を鳴らしてくる。気づかれたのだ、南無三なむさんである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官吏始めて心着き、南無三なむさん失策しくじったりと思えども、慈善のための売買なれば、剰銭を返せとい難く、「こりゃていのいい強奪ぶったくりだ。」と泣寝入に引退ひきさがりぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
南無三なむさん呼子よびこをふいた部将が抜刀ばっとうをさげて、あっちこっちの岩穴いわあなをのぞきまわっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らつしやいまし、と四十恰好しじふかつかうの、人柄ひとがらなる女房にようばうおくよりで、して慇懃いんぎん挨拶あいさつする。南無三なむさんきこえたかとぎよつとする。こゝおいてか北八きたはち大膽だいたんに、おかみさん茶棚ちやだなはいくら。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
南無三なむさん、こいつは、いけねえ。めずらしく手強てごわいらしいぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左右をみまわして、叱りもしない、滝太郎の涼しやかな目は極めて優しく、口許くちもとにも愛嬌あいきょうがあって、柔和な、大人しやかな、気高い、可懐なつかしいものであったから、南無三なむさん仕損じたか
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あっ。南無三なむさん
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と爪立てしてひょい、「南無三なむさん、踏んだ。」と渋面造って退すさる顔へ何やらんひやりとする。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、」と不意に呼吸いきを引いた。濡れしおたれた黒髪に、玉のつらなるしずくをかくれば、南無三なむさん浪にさらわるる、とせなを抱くのに身をもたせて、観念したかんばせの、気高きまでに莞爾にっことして
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「男の声かな、ええ、それは大変。生血を吸われる夥間おなかまらしい、南無三なむさん、そこで?」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かっと逆上のぼせて、たまらずぬっくり突立つッたったが、南無三なむさん物音が、とぎょッとした。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)