)” の例文
これより三留野みとの驛へ三里。山び、水ゆるやかに、鷄犬の聲歴落れきらくとして雲中に聞ゆ。人家或はけいに臨み、或は崖に架し、或は山腹にる。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
抱いて通ったのか、もつれて飛んだのか、まるでうつつで、ぐたりと肩にっかかったまま、そうでしょう……引息をほっと深く、木戸口で
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋の欄干らんかんかかって、私はただ涙ながらに時の経つのを待っていた。大時計の上には澄み渡った空に星が二つ三つきらめいていた。
果ては歩調も速くなつて、汗をかきながら急いでゐたが、黄瀬川の橋にかゝつた時、私は歩くのをよして其處の欄干に身をせかけた。
樹木とその葉:34 地震日記 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
私は甲板に出て欄干てすりった。島の方角を見ると、闇の中に、ずっと低い所で、五つ六つの灯が微かにちらついて見える。空を仰いだ。
お杉は消えかかる焚火を前にして、かたえの岩に痩せた身体をせかけたまま、さながら無言のぎょうとでも云いそうな形で晏然じっと坐っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
プロムナアド・デッキの手摺てすりりかかって海につばいていると、うしろからかたたたかれ、振返ふりかえると丸坊主まるぼうずになりたての柴山でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
きのうも今日も、お米は陰気な一間ひとま塗箪笥ぬりだんすりかかって、ものにかれたような、祈るような、泣きたいようなひとみをジイとっていた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機関手は直に機関車をめたるに飛込み遅れたる同行の青年はくと見るや直に同校の土堤にかかざま短刀にて咽喉部を突きて打倒れたり。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして四辺あたりの騒々しさと掛け離れた静かな卓子テーブルりかゝつて、ちびり/\洋盃コツプふちめながら、頭を突き合はせて低声こごゑで何か話してゐた。
彼山々こそ北海道中心の大無人境を墻壁しょうへきの如く取囲とりかこむ山々である。関翁の心は彼の山々の中にあるのだ。余は窓にって久しく其方を眺めた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さっきはその上にあごを載せていたのが、今はうしろへりかかっていて、頭の上の網棚あみだなに真っ白なパナマ帽を置いている。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
秋蘭は古風な水色の皮襖ピーオを着て、紫檀の椅子にりながら手紙の封を切っていた。彼女は朝の挨拶をすますと足の痛みのやわらぎを告げて礼を述べた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
警官の後ろから従いて帰ったゲーム取りは、しばらく入口に立っていて、やがて静かに扉をしめると、足音に注意しいしい計算器の椅子にった。
撞球室の七人 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
短い夫婦みょうとの契り——ほんとに、夢だったかもしれないと、得耐えたえず門柱にりかかった千浪は、いつしか地に伏して泣きじゃくっていたのだった。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
厨房だいどころすみからすみまでけむりで一ぱいでした、公爵夫人こうしやくふじん中央まんなかの三脚几きやくきつてッちやんにちゝましてました、それから料理人クツク圍爐裡ゐろり彼方むかふ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は暫らく、窓にって青い月の光りを受けた黒い家を見ていたが、いうにいわれぬ悲しさがシミジミと胸に湧いた。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はぼんやりと橋の袂の街灯にりかかって、靄の中に消えて行く女の後姿を見送っている。女が口吟くちずさんで行く「マズルカ」の曲に耳を傾けている。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
そして薔薇色ばらいろ寝衣ねまきらしいものを着た、一人の若い娘が、窓の縁にじっとりかかり出した。それはお前だった。……
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ラムプを吹消して、手探りで草鞋わらじを穿いて、地面じべたへジカに置いた座布団の上にドッカリと坐って、潜り戸にりかかりながら腕を組んで眼を閉じた。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一人が、腕組したまま、柱にりかかって、大きい声で話していた。半兵衛は、その言葉が、耳に入ると共に、うるささと、軽い憤りとが起ってきた。
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
去年立秋ののち旬余の或る日、机にりて「情史」をひもとき偶々巻二十四を開きしになかに洞庭劉氏といふ一項あり
「そんな恰好かっこうで、あたしの眼をごまかして通り過ぎようとしたって駄目よ。」と甘えながら僕の胸にりかかった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
一疋の犬——ちらりと見るとリヴァズ氏のポインタの老犬カルロ——が鼻で門を押すと、セント・ジョン氏が腕組みをして、それにりかゝつてゐた。
明け放したる障子にりて、こなたを向きて立てる一人の乙女おとめあり。かの唄のぬしなるべしと辰弥は直ちに思いぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
見るに忍びないものが、窓框まどがまちせかけた片肘にあごを乗せて視力のうすれた眼でぼんやり外の風景にみとれている彼の横顔の中に深い翳を刻んでいる。
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
今日の只今も繇条ようじょう書屋の書斎南窓下の机にって一方には植物の実物をけみし、一方にはペンを動かしてこれを記述し、また写生図をも自分に作っている。
最後に夫人も僕等も思ひ思ひに立つて踊り廻つた。洞窟の石壁せきへきに映るその影を面白がつて椅子につて居たのは晶子であつた。十二時に迎への馬車が来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それから僕はいつも晩に吸う葉巻をくわえながら、寝台車の廊下の窓にって、歩廊のいとなみを眺めていた。
鉄道事故 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
崔は女と夫婦になって夢のような燕楽えんらくの日を送った。崔が酒に飽いて窓にって立っていると、貴婦人がきた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
マダム・シャリニは肱掛椅子の背にぐったりとうなじせて、夢見るひとのように、ぼんやり空間を見つめていた。
麻酔剤 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
と叫んで、短刀をガラリと落すと、張りつめた力を急に失なったように、ガックリと友木の胸にりかかった。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
いつもかたくとざされてもの音もしない離れの障子があいて脇息につた老僧の姿のみえるのはこの頃である。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
私と庄亮とは、自分たちの談話室のソファにりかかって、それこそ水入らずで、また沢庵たくあんをかりかり噛んだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
慌しく汽笛が鳴つて、ガタリと列車が動き出すと、智惠子はヨロヨロと足場を失つて思はず吉野にかゝつた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
同胞新聞の楼上なる、編輯室へんしふしつ暖炉ストウブほとりには、四五の記者の立ちて新聞をさるあり、椅子にりて手帳をひるがへすあり、今日の勤務の打ち合はせやすらん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかれども赤貧洗うがごとく常に陋屋ろうおくの中に住んで世とれず。古書こしょ堆裏たいりひとり破几はきりていにしえかんがえ道をたのしむ。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
山の斜面しやめんに露宿をりしことなればすこしも平坦へいたんの地を得す、為めに横臥わうぐわする能はず、或は蹲踞するあり或はるあり、或は樹株にあしささへてするあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
と言って、そっと扉をあけたお君は、椅子にってスヤスヤと眠っている能登守の姿を見て、嫣然にっこりとして、音を立てないようにその傍へ近づいて行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
比叡山ひえいざん延暦寺えんりやくじの、今、私の坐つてゐる宿院の二階の座敷の東の窓の机につて遠く眼を放つてゐると、老杉蓊鬱おううつたる尾峰の彼方に琵琶湖の水が古鏡の表の如く
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
そして、彼は僕を避けるやうに暗い隅へ行つて、板壁に背をりかゝらせてうづくまり、立膝の間に顏ごと押しこんで、何かつぶやきだした。時々、くすくす笑ふ。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
仏蘭西フランス窓にりかかって、豊頬に微笑を浮べながら、遠くの澄んだ空を見上げているのはエリスであった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかるに今日たれかわれわれに、一つの椅子にれるマドンナを音楽で与えてくれる者があるか。生活のあらゆる時間のために音楽を与えてくれる者があるか。
斯う旨々と眠て居る者を、起すのも罪だから其のまま余は煖炉の前にかえり燃える火を眺めて居たが、余ほど身体が疲れたと見え、椅子にったまま居眠った。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
安楽椅子にりかかったまま、時々ひくい呻き声を漏らしながら、口で何か訳の分らない音を立てるたんびに十字を切っては、その手で口を押え押えしていた。
甲野さんは植込も見ず、池も見ず、芝生も見ず、机にってじっとしている。き残された去年の石炭が、煖炉のなかにただ一個冷やかに春を観ずるていである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
痛風がおきて僕自身も身動きが出来なかったので、ぼんやり肱掛椅子にりかかっていた。折しも僕は重々しい律動的な跫音あしおとをきいた。普魯西の軍隊が来たのだ。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
はてしなき今昔こんじやくの感慨に、瀧口は柱にりしまゝしばし茫然たりしが、不圖ふといなづまの如く胸に感じて、想ひ起したる小松殿の言葉に、ひそみし眉動き、沈みたる眼閃ひらめき
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
何ぞ知らん此家は青樓の一で、今女に導かれて入つた座敷は海に臨んだ一室ひとまらんれば港内は勿論入江の奧、野の末、さては西なる海のはてまでも見渡されるのである。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
嫂を送り出して、奥へ入って来ると、まだあかりかぬ部屋には夕方の色が漂うていた。お作は台所の入口の柱にりかかって、何を思うともなく、物思いに沈んでいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)