くみ)” の例文
旧字:
以上は名古屋市役所の編纂した『名古屋市史』に由って記した。この事件あってより尾張一藩はこぞって勤王党にくみすることとなった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
われ等は断じて力量以上の、立入った穿鑿せんさくにはくみしない。われ等は心静かに知識の増進を待って居る。汝等もまたそれを待たねばならぬ。
こはそもいかに! 賊はあらくれたる大のおのこにはあらで、軆度とりなり優しき女子おんなならんとは、渠は今その正体を見て、くみしやすしと思えば
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腰弱き彼等のくみするに足らざるを憤れる蒲田は、宝の山にりながら手をむなしうする無念さに、貫一が手も折れよとばかり捩上ねぢあぐれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「よく打明けてくださいました。よろこんで義にくみします。誓って、曹操を討ち、帝のおこころを安んじましょう」と、約した。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電話の容子では、くみしやすいと見て、少し調子を合わせながら、新子のことを洗いざらい、訊きただしてやろうと考えたのである。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
柳亭の弁護をされました河上弁護士も当時のことをおかきになりました手記の中で「金近は陽に岸本にくみし陰に之を半二郎に売りしならん」
蜜柑の皮 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
この話は「続武家閑話ぞくぶけかんわ」にったものである。佐橋家の家譜かふ等では、甚五郎ははやく永禄えいろく六年一向宗徒にくみして討死している。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
而してこの奇女子をりて建文にくみし永楽と争わしむ。女仙外史の奇、の奇を求めずして而しておのずからしかるあらんのみ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ピアティゴルスキーにくみする人が多かるべきは予想にかたくないが、私は仮にこれを第五番目に置いて、フォイアマンに花を持たせようと思う。
そういう発作的な疳癪かんしゃくは半ば病態のせいで、穏やかな精神はそれにくみしていなかった。がその疳癪のために、彼の身体はひどく揺り動かされた。
認めてくれて、他の生徒がつかえると、『橘高君、何うだ?』と指名するんだ。少しも意に介していない。それでくみやすしと見たのが悪かったんだ
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あの伊賀の連中へくみするか、どっちにしろ、ここでぼろい儲けをしようとたくらんでいる与の公にとっては、大痛事おおいたごと
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仮令、いかなることたりとも、不義にくみせぬを以て、吾等の道と心得ておる。このことは、よく、説いた筈じゃ。牧
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
いうまでもなく私は世の常の楽天観にくみするものではない。私は厭世を越えたるいなむしろ厭世そのものの中に見いだされたる楽天観をいうのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かれは一面に危険なものであると認められていながら、また一面にはくみし易きものであると侮られてもいる。蝮が怖いなどというと笑われるくらいである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
果然、一人の不良少年は鎌倉海岸の脱衣場で彼女の袂からこの手紙を盗み取ると、彼女をくみし易いと見込んだ。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
下にいる多勢のものは、あごをつきあげ、上にいるものの顔色を見るのだ。彼らは彼らの考えで、気前がよくくみし易げなにんていをそこに見わけるのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
関東説にくみせば天誅すべしと、軟論公卿の表門へ貼紙があるころ、さきの小笠原図書頭の淀駐兵以来ひそかに醸成されつつあったクーデターの気運も熟して
尊攘戦略史 (新字新仮名) / 服部之総(著)
暴虎馮河ぼうこひょうがには孔子こうしくみせずといったが、世俗はいまだ彼らに敬服けいふくする。昔時せきじ、ローマ時代には徳という字と勇気という字とは二つ別々に存在しなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あるいは由比ゆい戸次べつきの謀叛にくみして、たいてい片付いてはしまったが、しかしこればかりでは決して尽きたとはいわれぬので、諸国にはまだ若干の食禄を持って
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
禍害なるかな、偽善なる学者、汝らは預言者の墓をたて、義人の碑を飾りて言ふ、「我らもし先祖の時にありしならば、預言者の血を流すことにくみせざりしものを」
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは菅公が左遷の時、右大弁であった忠平はひそかに菅公に同情して兄にくみせず、その後も絶えず配所へ消息を通わして、慇懃いんぎんを結んでいたからであると云われる。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かつ里人のかたるを聞けば、九四東海東山の道はすべて新関をゑて人をとどむるよし。又きのふ京より九五節刀使せつとしもくだり給ひて、上杉にくみし、総州のいくさに向はせ給ふ。
なるほど、ふとりすぎた蕗みたい、此奴は食へない化け者だ、と家康も亦律義なカサ頭ビッコの怪物を眺めて肚裡とりに呟いた。然し、くみし易いところがある、と判断した。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
藩主より賞賜しょうしあれば部内の堤防に用い、貧民の肥料培養等の用に供し、種々仁政のあとあり。前原一誠の乱、その門人にして前原にくみせし者多し、みずからまた官嫌かんけんこうむる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼は革命にくみする者に非ず、哲学的の理想を有するものに非ず、此故に彼は物徂徠の如く想考的の政論を為す能はず。時勢と事情との二つは常に彼の立論の根拠たりし。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
子曰く、虎をてうち(徒搏)にし、河をかちわた(徒渉)りて、死すともゆるなきものは、吾くみせざるなり、必ずや事に臨みておそれ謀を好みて成すひとに(与する)なり。(一〇)
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そうしてこれはくみしやすいという心が起った。彼は癇癪かんしゃくを起している。彼はれ切っている。彼はわざとそれを抑えようとしている。全く余裕のないほど緊張している。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いわゆる仁義をって覇業を成すの徒が現れるので、世の降り俗のくずるると共に、王道は益々湮没いんぼつして明らかならざる事久しきを致した。けれども天道はついに善にくみする。
永久平和の先決問題 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
しかし此の憎悪や反抗にくみしないものは「全然芸術家でもなければ、又、全然人間でもない」
と言って、俺は膺懲論にくみしていたのではない。そうした理窟を抜きにして、形そのものが——破壊の形相それ自体がいわば抽象的に俺を昂奮させた。感動と言ってもいい。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
と心のうちで川添富彌が忠義無二の秋月と思いのほか、上屋敷の家老寺島あるいは神原五郎治とくみして、水飴をかみへ勧めるかと思いましたから、顔色を変えてジリヽと膝を前へ進め。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なれどもそなたのわざの中に、邪道の剣とでもいうべきか、相手の足をなぐ一手あり、これ我れのくみせざるところ、の一手さえ封じたならば、主君へご推挙いたすであろうと
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もうこれから後はトントン拍子に、天、孝子孝助にくみして仇討本懐一途にとスピードをかけさせている。もっともこの辺まできてまだモタモタ筋を運んでいるようでは仕方がないが。
その文にいわく(中略)貴嬢の朝鮮事件にくみして一死をなげうたんとせるの心意を察するに、葉石との交情旧の如くならず、他に婚を求むるも容貌ようぼう醜矮しゅうわい突額とつがく短鼻たんび一目いちもく鬼女きじょ怪物かいぶつことならねば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
吾人は寧ろ進歩的思想にくみするものなり、然りと雖、進歩も自然の順序をまざる可からず、進歩は転化と異なれり、若し進歩の一語の裡に極めて危険なる分子を含めることを知らば
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
来て見れば予期以上にいよいよ幻滅を感じて、案外くみしやすい独活うどの大木だとも思い、あるいはたがゆるんだおけ、穴のいた風船玉のような民族だと愛想を尽かしてしまうかも解らない。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
即ち無量の安助あんじょなかに「るしへる」と云える安助、おのが善に誇って我は是 DS なり、我を拝せよと勧めしに、かの無量の安助のうち、三分の一は「るしへる」に同意し、多分はくみせず
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何ぞや土耳古人にくみしたとでも仰せられまするか? 行為にせよ、思想にせよ
最っと深い巧みのある悪人かと思ったら、腹立ち紛れに何も彼も口外する、存外浅薄な、存外くみし易い奴である、茲で一言に叱り附けて呉れようかとも思ったが、此の時忽ち思い附いた
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
雪之丞をすっかりくみやすいものと考えて、只、おだて上げ、そそり立てて置けば、好餌にさそわれて、どのような犬馬の労をも取るであろうと、すっかり信じ込んでしまったように見えた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ゴマリスト党にくみして、兵力をもって憲法を破毀し(Coup d' état)、グローチゥスら反対派の人々を捕えて獄舎に下し、グローチゥスの財産は、ことごとくこれを没収して
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
同様に、等しく自由を重んずると言っても、世のいわゆる自由主義者と基督者とは根本的に異なり、等しく理想を貴ぶと言っても、いわゆる理想主義者と基督者とはくみするところがありません。
親しみ易いくみし易い無邪気なおめでたいものとしか映らないのです。
新らしき婦人の男性観 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
さるを天は善にのみくみしたまはぬにや、我が父君は再び世になり出でたまはむ折もあらせたまはで、我五ツといふ年の暮、その頃はまだ御年若かりし母君と、いはけなき我にさこそはお心残りけめを
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
かかる者に真理はくみせず
プロパガンダ (新字新仮名) / 加藤一夫(著)
物みな今日けふは身にくみす。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私はそれにくみしない。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
くみやすし——とも観ていないであろうが、時折、飄逸ひょういつをあらわしたり、馬鹿を見せたりするので、交際つきあいいい男としているのは事実である。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)