鳶尾いちはつ)” の例文
鳶尾いちはつなどの青々と繁っている茅葺の家、そことなく洩れ来るの音に交って、うら若い女の歌う声、路のへに飛び交うつばめの群。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこへいくとこの文楽師匠は赤でなし、青でなし、巧緻に両者を混ぜ合わせた菖蒲あやめ鳶尾いちはつ草、杜若かきつばた——クッキリとあでに美しい紫といえよう。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
濕つた杉の根方には鳶尾いちはつの花が咲いてゐる。其處にはなにもない。どこにもなにもない。たゞ小さい水のせゝらぎの音が眞近にきこえるのだ。
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
芙蓉ふよう、古木の高野槇かうやまき、山茶花、萩、蘭の鉢、大きな自然石、むくむくと盛上つた青苔あをごけ枝垂桜しだれざくら、黒竹、常夏とこなつ花柘榴はなざくろの大木、それに水の近くには鳶尾いちはつ、其他のものが、程よく按排あんばいされ
屋根が並外れて高く、その平な屋梁むねには、一面に百合や、鳶尾いちはつや、その他の花が咲いていた。屋根は薄く葺いてあり、軒に近い小屋がけみたいな小屋根には、丸い石がのせてあった
畑の中の一本の大きな花桐には、測量の為であろう紅白の旗が竿の先にひるがえっていた。路並の茅葺屋根には、棟に鳶尾いちはつか菁莪らしいものが青々と茂って花が咲いていた。
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
東京附近では、青い鳶尾いちはつがこの装飾に好んで用いられるらしい。