鳥辺山とりべやま)” の例文
二部興行で、昼の部は忠信ただのぶ道行みちゆきいざりの仇討、鳥辺山とりべやま心中、夜の部は信長記しんちょうき浪華なにわ春雨はるさめ双面ふたおもてという番組も大きく貼り出してある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だからおしゅん伝兵衛は鳥辺山とりべやまで死んでいる。たいていはくびれて死ぬ。汽車に轢かれるなどということもむろんなかった。
身投げ救助業 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「秋の鳥辺山とりべやまはよかったわね。落葉がしていて、ほら二人でおしゅん伝兵衛の墓にお参りした事があったわね……」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さては浮橋縫之助うきはしぬいのすけたがいに「顔と顔とを見合せて一度にわつと」嘆きさえすれば後は早間はやまに追込んで「鳥辺山とりべやま」の一段はすぐさま語り終られると知るものから
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふたり共、それをちゃんと意識していて、お酒に酔ったとき、掛合いで左団次松蔦の鳥辺山とりべやま心中や皿屋敷などの声色を、はじめることさえ、たまにはありました。
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
薗八の「鳥辺山とりべやま」、その場所も此処からはさして遠くはない、その曲の「九つ心も恋路の闇にくれ羽鳥——」とかいう辺りの面白い三味線の手を思い浮べて居ると
六日月 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
蓄音器では、耳にタコの出来る程鳥辺山とりべやまも聞いて居る。しょうの声で呂昇の堀川は未だ聞かぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
語り出しは、今少しだ。鳥辺山とりべやまは矢張好かった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)