しこ)” の例文
しこを売る声もきこえた。赤とんぼを追いまわる子供の黐竿もちざおも見えた。お君はうっとりとそれを眺めていると、内からお絹の弱い声が聞えた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
せつせと押し進む艀の両側には、かつをからでも追はれて来てゐたか、波の表が薄黒く見ゆる位ゐまでに集つたしこの群がばら/\/\と跳ね上がつた。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
甲州街道に肴屋さかなやはあるが、無論塩物干物ばかりで、都会とかいに溢るゝしこ秋刀魚さんままわって来る時節でもなければ、肴屋の触れ声を聞く事は、殆ど無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きらずに煮込んだ剥身むきみは、小指を食切るほどのいきおいで、私も二つ三つおすそわけに預るし、皆も食べたんですから、看板のしこのせいです。幾月ぶりかの、お魚だから、大人は、坊やに譲ったんです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しこ目刺めざし 五四・七一 二九・一八 六・二〇 九・九一
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しこは? 鯷?」「秋刀魚さんまや秋刀魚!」のふれ声が村から村をまわってあるく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)