鬼婆おにばば)” の例文
蝶子も客の手前、粋をきかして笑っていたが、泊って来たりすれば、やはり折檻の手はゆるめなかった。近所では蝶子を鬼婆おにばばと蔭口たたいた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
日本にては山姥やまうば鬼婆おにばば共に純然たるウイツチならず。支那にてはかの夜譚随録やたんずゐろく載する所の夜星子やせいしなるもの、ほぼ妖婆たるに近かるべし。(二月八日)
われわれの仲間でも、あいつの所へ出入りした人間は、どうしてたいへんな数だぜ。ただ恐ろしい鬼婆おにばばだがね……
彼女あいの事じゃ、わたしも実に困いましたよ。銭はつかう、せがれとけんかまでする、そのあげくにゃ鬼婆おにばばのごと言わるる、得のいかン媳御よめごじゃってな、山木さん——。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
口をきいてるのを聞くと憲兵かとも思われ、酒を飲んでるところを見ると馬方うまかたかとも思われ、コゼットをこき使ってるところを見ると鬼婆おにばばとも思われるほどだった。
この鬼婆おにばばアの子供ではなかった、という発見は私の胸をふくらませ、私は一人のとき、そして寝床へはいったとき、どこかにいる本当の母を考えていつも幸福であった。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もし気分がそのまま外に現われるとしたら自分の顔は半腐はんぐされの鬼婆おにばばのようなものだろう。彼女は興味を持って、手提鞄てさげかばんの鏡をそっとのぞいて見る。そこには不思議な娘が曲馬団きょくばだんの馬を夢みている。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「あゝ、それは鬼婆おにばばですよ」
首席と末席 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
母の来たことは知らないんだ! あの鬼婆おにばばめ、鉛筆で日付を書いてるって!……どっこい、そんな手に乗るもんか!……だって、それはまだ事実じゃなくて
「おおい、アリョーナ・イヴァーノヴナ、鬼婆おにばばあ! リザヴェータ・イヴァーノヴナ、絶世の美人! あけてくれたまえ! ええ、いまいましい、やつら寝てやがるのかな?」