餬口ここう)” の例文
しかるに、余のみるところにては、家相家に富有のものなく、その多くは日々の餬口ここうに追われておるありさまであるが、これでは人に説いても人が心服せぬ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかしかく李九齢りきうれいは窓前の流水と枕前の書とに悠悠たる清閑せいかんを領してゐる。その点は甚だ羨ましい。僕などは売文に餬口ここうする為に年中匇忙そうばうたる思ひをしてゐる。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「セチ辛い浮世だ、そうでもないヤクザが、僅の餬口ここうにあり付こうと、柄にもない芝居を打つこともある。もしも其奴がそんな玉なら構うことはござらぬ、叩っ切りなさい」
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれもと旗本のむすめなりき、幼にして両親を失い、嫁して良人おっとを失い、人に計られてたからを失い、餬口ここうのために家を失い、軒下に眠ること実に旬余、辛酸を喫してしゃくに閉じられてすでに絶せんとせるとき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)