頓著とんちゃく)” の例文
周囲には頓著とんちゃくなく魂は鏡の中に打ち込んで、いつまでも/\塗っている。中には肌をぬいで襟首を塗り立てているものもある。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
すでに『マンフレッド』首齣しゅせきの数十句の訳がある。そうかといって、バイロニズムには頓著とんちゃくするところがなかった。バイロンその人というところのバイロニズムとは別物である。
いつになったら滅亡してしまおうが、そんな事には頓著とんちゃくしないのではあるまいか。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
趙七爺は頭をゆすって言った。「どうあっても仕方がない。辮子の無い者はこれこれの罪に当る、と一条一条、書物の上に明白に出ている。家族が何人あろうともそんなことは頓著とんちゃくしない」
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
不完全を厭う美しさよりも、不完全をもれる美しさの方が深い。つまり美しいとか醜いとかいうことに頓著とんちゃくなく、自由に美しくなる道があるはずなのである。美しさとは無礙である時に極まる。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
風がビュー/\吹き込んで寒いだろうが、局員はそんなことには頓著とんちゃくしないのである。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かれはおりおり役所を勝手に休んで鶴見の家にやってきて、長話をして行く。拘束されることが何よりも嫌いらしい。勤務などに殆ど頓著とんちゃくしていない。なるがままになれというような風情ふぜいが見える。