音無おとな)” の例文
そして一家は高次郎氏やみと子夫人の郷里の城ヶ島へ水の引き上げてゆくような音無おとなしさで移っていった。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
其時間が画家の意識にさへのぼらない程音無おとなしくつに従つて、第二の美禰子が漸やくいてる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
之倖いとはひょっとすると後妻のおそでの方で、康太郎は評判の音無おとなしい男で財産も少しはあった。
放浪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
と、ゆる/\力無く言ひながら立上つて、爐の方に行つて、妹の下手に音無おとなしく坐る。氣が附けば浴衣はお揃ひだ、彼家あすこにしては珍らしいことをしたものだと私は不思議に思つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
音無おとなしく、彼奴、麻布の狸穴に引っ込んでればよかったんだ。——何もこんな小梅三界さんがいへ這出して来るこたァなかったんだ。——こんなとこへのこ/\這出して来たりゃこそ畢竟ひっきょうそんなことにもなったんだ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「沢井道場名代なだい音無おとなしの勝負」
子供らは砂糖のついた煎餅せんべい音無おとなしく食べていたが、定雄の末の二つになる子だけは、細く割りちらけて散乱している菓子の破片の中で、泳ぐように腹這はらばいになり
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)