隠袖かくし)” の例文
記者は玉子色の外套の隠袖かくしへ両手を入れたまま、反返そりかえって笑った。やがて、すこししおれて、前曲まえこごみに西の方をのぞくようにしながら
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時とすると学士はフロック・コオトの後の隠袖かくしから白い帕子ハンケチを取出し、広い額の汗を押拭って、また講演を続けた。時々捨吉は身内がゾーとして来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
教授はズボンの隠袖かくしへ手を差入れて鍵の音をさせながら、図らず亭主側に廻ったような晴々とした顔付で居た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学士は洋服の隠袖かくしから反射機を取出して、それでお房の目を照らして見た。何を見るともなしにその目はグルグル廻って、そして血走った苦痛の色を帯びていた。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は自分の隠袖かくしの中から巻煙草まきたばこの袋を取出し、それを側に居る五六人の兵卒にすすめて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)