隠芸かくしげい)” の例文
旧字:隱藝
阿久の三味線で何某が落人おちうどを語り、阿久は清心せいしんを語った。銘々の隠芸かくしげいも出て十一時まで大騒ぎに騒いだ。時は明治四十三年六月九日。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
富穀もまた滑稽こっけい趣味においては枳園に劣らぬ人物で、へそ烟草タバコむという隠芸かくしげいを有していた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たまにあるかと思うと、それはもう既に名優の声色、宴会の隠芸かくしげいだ。何でもいいから、一つだけ選べ、と言われると実際、迷ってしまうのだ。まごまごしているうちに試験の期日は切迫して来る。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あたかも大正の今日西洋料理の宴会に臨むもの、何処でおぼえて来るものやら知らねど、大抵テーブルスピーチとかいふものを心得ゐるが如し。往時宴会の隠芸かくしげいは愚劣なれども滑稽にして罪はなし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)