闇市やみいち)” の例文
与平はたけのこを仕入れて来たと云って、これから野菜と一緒にリヤカアで、東京の闇市やみいちへ売りに行くのだと支度したくをしていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
狐と大力とは別に関係はないわけだが、狐の兇悪きょうあくな性質を受けたと見え、現在の闇市やみいちの親分のように、商人をいじめては、いろいろな品物をうばいとっていた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
(その後も鉄橋はなかなか復旧せず、徒歩連絡のこの地域には闇市やみいちが栄えるようになったのである。)
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
無数の変り果てた顔の渦巻いていた廃墟はいきょを、無数の生存者が歩き廻った。廃墟の泥濘の上の闇市やみいちは祭日のようであった。人々はよろめきながら祭日をとり戻したのだろうか。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
息子は父のネクタイを闇市やみいちに持って行って金にかえてもどる。わたしはう人ごとに泣ごとを云っておどおどしていた。だがわたしは泣いてはいられなかった。泣いている暇はなかった。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)